ブルンナー1

 わたくしは、『福音と世界』の連載において、現代神学について、100年という長さで考えること、そしてその前半と後半を、1970年代あたりで区分するという捉え方を提案し、この構図の中で、現代神学の動向を描いてきている。
 この枠組みで言えば、現代神学の前半には、同じ問題状況の中で同様の問題意識を共有しつつ、神学の変革を試み、世界的に活躍した神学たちが存在し、この時期を特徴付けていた。この世代の神学者はそれぞれ有名で多くの著作を残しており、また研究対象として取り上げられるようになってすでにかなりの蓄積が存在する神学者も含まれる。バルトとティリッヒはその代表であろう。しかし、この世代の神学者がいかなる神学を構想したかを解明しそれを評価する作業はむしろころからの課題であって、これまでの研究で最終結論が提出されたわけではない。また、十分な研究がなされることなく、名前だけが常に取り上げられるような神学者も少なくない。
このように考えるとき、特に日本では、たとえば、ブルンナーやブルトマンはまだ本格的な研究対象とされたとは言えない状況であり(例外的な研究は存在するが)、ゴーガルテンやヒルシュとなると・・・。
 そこで、本ブログでは、わたくしの手元にある文献の紹介を通じて、現代神学前半の神学者について考えてみたいと思う。まずは、ブルンナーである。(2017年度の学生の研究指導のためにブルンナーを若干、読み直したことも、ブルンナーを取り上げる動機となっている。)
 まず、この著作。

E・ブルンナー
『出会いとしての真理』
教文館/国際基督教大学出版局、2006年。


第一部 哲学的・科学的真理理解との比較におけるキリスト教的真理理解
  第一章 観念論と自然主義
  第二章 出会いとしての真理
  第三章 出会いとしての真理と科学
  第四章 結論

第二部 出会いとしての真理
  第一章 キリスト教史における客観主義と主観主義
  第二章 聖書の真理理解
  第三章 聖書の真理概念と義認の信仰
  第四章 聖書の真理理解と教理(一)
  第五章 聖書の真理理解と教理(二)
  第六章 聖書の真理理解と教会


解説あとがき

 この著作は、1937年にウプサラ大学で行われた蓮即講演をもとに、1938年にドイツ語で初版が刊行された。それに第一部を付加して、1963年に改訂されたのが、上の目次に占められた第二版である。
 バルトとの自然神学論争後の著作で、おそらく、ブルンナーの思想をよく表した内容と言える。「出会いとしての真理」という言葉は、ブルンナーは「序」で、「いわば直感を通してふいに立ちあられてきた」と述べているが、20世紀の前半の思想状況をよくあらわした用語と言える。 

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西洋宗教思想としてのテオーシス

 古代と中世のキリスト教思想を特徴付けるキーワードに「テオーシス」(人間神化、神に似るものとなること)があります。とくに、東方教会で顕著ですが、より広い、神秘思想と呼ばれる伝統において、重要な位置を占めています。この思想系譜についてのまとまった大部の論集が刊行されました。

田島照久・阿部善彦編
『テオーシス──東方・西方教会における人間神化思想の伝統』
教友社、2018年。

総序 (田島照久)
序章 東西キリスト教における神化思想 (阿部善彦)

東方キリスト教における神化思想
第一章 プラトン主義と神化思想の萌芽
  ──東方教父思想における「神に似ること」概念の変容 (土橋茂樹)
第二章 ニュッサのグレゴリオスにおける神化思想
  ──人間本性の開化・成就と神化への道 (谷隆一郎)
第三章 証聖者マクシモスにおける神化思想
  ──神化の道行きの動的かつ全一的かたち (谷隆一郎)
第四章 ディアニュシオスの神化思想
  ──ヒエラルキアと不知の暗黒 (袴田渉)
第五章 ディオニュシオス『神秘神学』におけるヒュムネイン(讃えること)
  ──「彼方」の招きと拒絶 (宮本久雄)
第六章 パラマスにおける神化思想
  ──東方的伝統と独創 (大森正樹)

女性神秘思想における神化思想
第七章 ハーデウィヒの神化思想 (菊地智)
第八章 マルグリット・ポレートの神化思想
  ──源流と波紋、火と水の比喩を中心に (村上寛)

ドイツ・ドミニコ会学派における神化思想
第九章 フライベルクのディートリヒの神化思想
  ──「神の像」としての人間知性の観点から (西村雄太)
第一〇章 モースブルクのベルトルトにおける神化思想
  ──神的人間論の観点から (山崎達也)

エックハルトにおける神化思想
第一一章 エックハルトの「魂における神の子の誕生」教説と「神性への突破」教説
  (田島照久)
第一二章 エックハルトにおける人間神化と関係的存在論 (松澤裕樹)
第一三章 エックハルトの神化思想と異端断罪 (菊地智)

エックハルト以降の神化思想
第一四章 タウラーの神化思想
  ──エック張る断罪以後という観点から (田島照久)
第一五章 ゾイゼの神化思想
  ──西方キリスト教におけるキリスト中心的霊性 (阿部善彦)
第一六章 リュースブルクの神化思想 (菊地智)

近世・近代の神化思想
第一七章 クザーヌスの神化思想
  ──神と被造物を隔てる二分法的限界と人間の完全性 (阿部善彦)
第一八章 イグナチオ・デ・ロヨラの神化思想
  ──自己無化の下降的動性による一致と涙 (松村康平)
第一九章 スペインの神秘主義における神化思想
  ──十字架のヨハネとアビラのテレサ (鶴岡賀雄)
特別寄稿 闇は澄潭にその影を照らす
  ──天地創造の場に居合わせたのは誰か (松山康國)

あとがき
編・著者・編集協力者一覧

 「特別寄稿」については、「あとがき」で説明がなされているが、そこで言及された2016年の日本宗教学会での発表は、わたしも、記憶に残るものだった。その口頭発表が原稿になったわけである。

聖書注解書の役割

 聖書を読む、特に学問的な前提で読む場合に、不可欠のものの一つが注解書である。もちろん、個人的な好みで自由に読むのであれば(たとえば趣味として教養として)、読みたいように読んで、だれもそれ自体についてとやかく言う必要はないであろうが、学問ということを意識するならば、どのようにでも読みたいようにとは行かないことになる。
 そこで、、特に原典で聖書テキストに向かいあうとなると、さまざまな辞書とともに、各種に注解書が必要になる。大学での聖書の演習は、原典テキストを辞書などを使って読むことから始まり、多様な注解書を参照しつつ、テキストの読みの歴史・伝統を、また現代の学問成果を踏まえた読みができることが目指される。

 昨年から日本の注解書シリーズとしてスタートしたのが、VTJ(旧約聖書註解)とNTJ(新約聖書註解)であり、「日本語で書き下ろす聖書注解シリーズ」と言われる。もちろん、これまでも日本語で書き下ろされた聖書注解シリーズは存在していたが(『現代新約注解全書』新教出版社、など)、趣旨は欧米の翻訳シリーズではないということであろう。
 
 NTJの方は、昨日の本ブログで紹介のボウカムの翻訳者でもある、浅野淳博によるガラテヤ書注解がすでに昨年秋に刊行されている。大部の、かなり工夫の凝らされた内容になっている。

浅野淳博
『NTJ新約聖書注解 ガラテヤ書簡』
日本キリスト教団出版局、2017年10月。

「NTJ新約聖書注解」の刊行にあたって
凡例
はじめに(読んで下さい)

緒論

注解
第Ⅰ部 導入(1:1-9)
第Ⅱ部 福音の啓示とその弁護(1:10-2:14)
第Ⅲ部 福音の真理とその適用(2:15-6:10)
第Ⅳ部 結び(6:11-18)

あとがきに代えて:その後のガラテヤ書
参考文献

 全体をながめてまず気づくのは、注解の中でそれぞれの部の冒頭に置かれた「日本語訳」である。「はじめに」によれば、このガラテヤ書簡注解では、逐語訳と意訳という従来から問題とされてきた二つの訳の基本方針の対立を、逐語訳と自然訳の双方を提示する(並べる)という形で解決しようと試みられたことである。これは、このシリーズのほかの注解では、どうなるのだろうか。また、注解で提示される訳というのは、かなり大事な意味を持っている。
 先頃完結した、田川建三訳の新約聖書(『新約聖書、訳と註』作品社)では、この訳の刊行意図について、次のように語られていた。
「せっかく、新約聖書概論その他を発行しても、読者の方々が、では新約聖書そのものにどう書いてあるか、御自分でチェックなさってみよう、とお思いになった時に、安心して使える翻訳が存在しないと、困るので、新約聖書概論を書きながら、何としてでも自分の翻訳を発行したい、と思うようになりました。
 というわけで、概論を出す前に、まず正確な翻訳を発行しようと思った次第です。」
(http://www.tagawa-kenzo.server-shared.com/sub11.html)

 近々刊行される予定と聞く、日本聖書協会刊行の新しい聖書翻訳における訳文と、今回の注解書シリーズの訳文とは、どんな関係になるのかも気になるところである。ともかくも、昨年刊行された、新改訳の新しい翻訳も含めて、新しい聖書翻訳が刊行されることは喜ばしいことと思われる。

 また、今回の『NTJ新約聖書注解 ガラテヤ書簡』では、かなりの数の「トピックス」が挿入されており、新約聖書についての学問的知識を念頭に、注解書が読めるようになっており、学生などに有益と思われる(その分、注解書が大部になったとも言えるが。500頁を超えている)。有名なICCのシリーズのクランフィールドによるローマ書注解でも、第二巻目の最後にエッセイが収録され、読んで勉強になった記憶がある。注解も、さまざまな工夫の余地があるということかもしれない。

リチャード・ボウカム 続

 本日は、2月4日、大学近くの吉田神社では、2月2日、3日と節分が行われ、多くの人で賑わいました。今日は、後日祭ということですが、出店もすべてたたまれて、いつもの風景に戻っています。
 さて、今回も、リチャード・ボウカムについての文献紹介を行いますが、今回は、彼の名前を日本において有名にした(?)一冊です。

リチャード・ボウカム
『イエスのその目撃者たち──目撃者証言としての福音書』
新教出版社、2011年(原著は、2006年)。

緒言
略語一覧

1章 歴史家によるイエスと証言者によるイエス
2章 パピアスと目撃者証言
3章 福音伝承に見られる人名
4章 パレスチナのユダヤ人名
5章 十二弟子
6章 「初めから」の目撃者たち
7章 マルコ福音書に見られるペトロの視点
8章 マルコ福音書の受難物語の匿名人物
9章 パピアスが語るマルコ福音書とマタイ福音書
10章 口承伝承のモデル・ケース
11章 イエス伝承の継承
12章 不特定多数による伝承か目撃者証言か
13章 目撃者の記憶
14章 目撃者証言としてのヨハネ福音書
15章 「イエスの愛した弟子」による証言
16章 パピアスとヨハネ福音書
17章 ポリュクラテスとエイレナイオスとヨハネ福音書
18章 証言されたイエス

訳者あとがき

図表
人名索引(現代)
人名索引(古代)
古代文献索引

 新約聖書学は、とくにイエス研究は、様式史研究の基礎を継承しつつその限界をどのように方法論的に乗り越えるかが問われてきた。1980年代以降のイエス・ルネサンスは、方法論的に多くの試みを行い、その流れは現在も続いている。ボウカムも、この文脈に位置づけるべきであろう。キーワードと言える、証言・目撃者は、記憶の問題との関係も含めて、現代思想と聖書学との新たな関係構築を求めている。人名索引に、リクールの名前が見られるのは、その事情を示している。

ボウカムのヨハネ福音書研究

 リチャード・ブウカムは、日本でも紹介されている、著名なイギリスの新約聖書学者の一人である。今回、紹介するのは、比較的最近刊行のボウカムのヨハネ福音書研究である。ヨハネ福音書については、これまでも、多くの優れた研究が存在し、日本においても、すでに少なからぬ研究が公にされてきているが、ボウカムは、従来の聖書学にとどまらず、キリスト教思想のほかの専門領域とも共有できる議論を展開してきた点で(モルマンやパネンベルクの名前も見られる)、ヨハネに関しても、期待できるように思われる。本ブログでも、今後、さらに詳しい分析と紹介を行う機会があるかもしれない。

Richard Bauckam,
Gospel of Glory. Major Themes in Johannine Theology,
Baker Academic, 2015.

Preface
Abbreviations

1. "Individualism"
2. Divine and Human Community
3. Glory
4. Cross, Resurrection, and Exaltation
5. Sacraments?
6. Dualisms
7. Dimensions of Meaning in the Gospel's First Week
8. The Johannine Jesus and the Synoptics Jesus

Bibliography
Index of Scripture and Other Ancient Sources
Index Of Modern Author
Index of Subjects

プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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