宗教改革の記憶と忘却をめぐって

 今年は、宗教改革五500周年ということで、世界的にはもちろん、日本でもさまざまな企画が、それぞれの工夫を凝らして行われました。あるいは、これからの企画もあるかもしれません。
 宗教改革は、さまざまな視点から論じうる、解明を要する出来事ですが、歴史的な視点は、当然、重要なものとなります。しかも、歴史には、これまでの歴史研究で十分に取り上げられなかった、いわば忘却あるいは抑圧されてきた事柄も含まれており、それを掘り起こす「考古学的な」作業も必要になります。
 先日、次の論集をお送りいただきました。紹介します。

踊共二編著
『記憶と忘却のドイツ宗教改革──語りなおす1517-2017』
ミネルヴァ書房、2017年。

序章 記憶と忘却の五〇〇年 (踊共二)

第Ⅰ部 語りなおす宗教改革
 第1章 マルティン・ルターの宗教改革──実像と虚像 (加藤喜之)
 第2章 カトリック世界としての一六世紀ドイツ──信仰と行い (猪刈由紀)
 第3章 三つのプロテスタント──ルター派・西南ドイツ派・スイス改革派 (岩倉依子)
 第4章 宗教改革の磁場──都市と農村 (渡邊伸)
 第5章 宗教改革はイタリアに伝わったか──ルターとアルプス以南の世界 (高津美和)
 第6章 カルヴァン以前のフランス宗教改革 (深沢克己)

第Ⅱ部 変化するキリスト教世界
 第7章 一六一七年のドイツ──宗教改革から一〇〇年 (高津秀之)
 第8章 対抗宗教改革──イエズス会劇が映すもの (大場はるか)
 第9章 魔女迫害と「神罰」──プロテスタントとカトリック (小林繁子)
第10章 神聖ローマ帝国の多宗派派と三十年戦争──「神の帝国」と共存の政治学 (皆川卓)
第11章 フッガー家の人々──二宗派併存都市に生きて (栂香央里)
第12章 宗教改革急進派──記憶の回復と二一世紀の和解 (踊共二)

附論 日本のドイツ宗教改革史研究──過去・現在・未来 (森田安一)

あとがき
人名・事項索引

 テーマの設定にも、この半世紀の歴史研究の進展がうかがわれる。これまでの人物や教派などを中心とした歴史叙述とはひと味違う。
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N・T・ライト4

 日本におけるライトの紹介としては、本ブログでもすでに取り上げた、山口希生さん訳 『キリスト教の起源と神の問題1 新約聖書と神の民 上巻』(新教出版社、2015年)が挙げられるであろう。このブログでは、ライトのパウロ研究を数回にわたり紹介したが、ライトの射程はさらに広いことを知る上で、この邦訳は有益である。
 しかし、邦訳には、「上巻」とあるように、邦訳されたのは第三部までであり、 『キリスト教の起源と神の問題1 新約聖書と神の民』には、未翻訳の後半が残されている(3分の1程度か)。

 今回は、まだ未翻訳の残りに部分の内容を目次で確認しておきたい。

N. T.Wright,
Christian Origins and the Question of God Volume One
The New Testament and the People of God
,
SPCK, 1992.

まずは、既訳部分を簡単に、
Preface
Part I : Introduction
 1 Christian Origins and the New Testament

Part II: Tools for the Task
 2 Knowledge: Problems and Varieties
 3 Literature, Story and the Articulation of Worldviews
 4 History and the First Century
 5 Theology, Authority and the New Testament

Part III: First-Century Judaism within the Greco-Roman World
 6 The Setting and the Story
 7 The Developing Diversity
 8 Story, Symbol, Praxis: Elements of Israel's Worldview
 9 The Beliefs of Israel
10 The Hope of Israel

 ここまでが、 既訳部分。

Part IV: The First Christian Century
 11 The Quest for the Kerygmatic Church
   1. Introduction
   2. Tasks and Methods
   3. Fixed Points: History and Geography
   4. Filling in the Gaps: Literature in Search of Setting
 12 Praxis, Symbol and Questions: Inside Early Christian Worldview
   1. Introduction
   2. Praxis
   3. Symbols 
   4. Questuions
 13 Stories in Early Christianity (1)
   1. Introduntion
   2. Luke and his Stories
   3. The Scribe and the Plot: Matthew's Story
   4. 'Let the Reader Understand': The Story of Mark
   5. Synoptic Gospels: Conclusion
   6. Paul: From Adam to Christ
   7. The Narrative World of the Letter to the Hebrews
   8. The Story of John
 14 Stories in Early Christian (2)
   1. Introduction
   2. Towards a Revised Form-Criticism
   3. Stories but no Story? Q and Thomas

 15 The Early Christians: A Preliminary Sketch
   1. Introduction
   2. Aims
   3. Community and Definition
   4. Development and Variety
   5. Theology
   6. Hope
   7. Conclusion

Part V: Conclusion
 16 The New Testament and the Question of God
   1. Introdution
   2. Jesus
   3. The New Testament
   4. The Question of God

Appendix: Chronological Chart of Second-Temple Jewish History and of Earl Christianity

Bibliography
Abbriviation
A Primary Sources
B Secondary Literature

Indexes
A Index of Ancient Sources
  Old Testament/Apocrypha/Pseudepigrapha/Qumran/Josephus/Philo/
  New Testament/Other Early Christian Works/Gnostic
Sources/Pagan Sources
B Index of Modern Authors
C Index of Selected Topics

 本論部分で、480頁近い大きさの著作であるが、既訳部分は、338頁まである。上下巻に分かるのが適当だろう。
 なお、ライトについては、「N.T.ライト読書会ブログ」が公開されている。
 
 




ル=ゴフ6

 ル=ゴフと言えば、特に有名なのは、煉獄論でしょうか。わたくしが、ル=ゴフに関心を持ったのは、煉獄論からでした。
 「一二世紀末まで煉獄(purgatorium)という語は名詞としては存在しない。「煉獄」なるものが実在しないのである」(6)という有名なテーゼである。従来の中世研究は、しばしばこうした基礎的事実の無視によってなり立ってきたことは、反省を込めて留意する必要がある。19世紀から20世紀半ばまで(あるいはさらにその後も)の中世論はさまざまな点で問題的であることを忘れてはならない。

ジャック・ル・ゴッフ
『煉獄の誕生』
法政大学出版局、1988年(原著、1981年)。

第三の場所

第一部 煉獄以前の死後世界
   Ⅰ 古代の想像的形象
   Ⅱ 煉獄の父たち
   Ⅲ 中世初期──教義上の停滞とヴィジョンの増殖

第二部 一二世紀 煉獄の誕生
   Ⅳ 浄罪の火
   Ⅴ 浄罪の場所《LOCUS PURGATORIUM》
   Ⅵ シチリア・アイルランド間の煉獄
   Ⅶ 煉獄の論理

第三部 煉獄の勝利
   Ⅷ スコラ的体系化
   Ⅸ 社会的勝利──司牧と煉獄
   Ⅹ 詩的勝利──『神曲』
   今なぜ煉獄か

補遺
   Ⅰ 煉獄に関する文脈
   Ⅱ PURGATORIUM──ある語の歴史
   Ⅲ 初期の画像──図版解説
   Ⅳ 最近の研究

原注
訳注
訳者あとがき
索引(巻末)

 ル=ゴフは、補遺Ⅳにおいて、1981年以降に知った研究にも、詳しく触れている。「こうした最近の研究に接した結果、私は現存する八世紀から一三世紀までの死後世界の夢物語すべてを研究対象としたわけではないことを、あらためて明確に為ておく必要を感じる」(569)と述べている。歴史研究はとどまることがない。 
   

ル=ゴフ5

 ル=ゴフの中世研究は多岐にわたる示唆に富んだものですが、その中でも、重要なものの一つが、中世の貨幣・経済をめぐる研究が挙げられます。これは、貨幣や経済から中世の全体(教会、王権、修道制、大学、農業)を描き出す試みであり、中世についての知見を大きく前進させるものであったと思われます。

ジャック・ル=ゴフ
『中世と貨幣──歴史人類学的考察』
藤原書店、2015年。

謝辞


第1章 ローマ帝国とキリスト教化の遺産
第2章 カール大帝から封建制へ
第3章 十二世紀末から十三世紀初頭にかけての貨幣の急増
第4章 貨幣の最盛期としての十三世紀
第5章 十三世紀の商業革命における交易、銀、貨幣
第6章 貨幣と揺籃期の国家
第7章 貸付、債務、高利貸し
第8章 新たな富と貧困
第9章 十三世紀から十四世紀へ、貨幣の危機
第10章 中世末期における税制の完成
第11章 中世末期の都市、国家、貨幣
第12章 十四、十五世紀野物価、賃金、貨幣
  〈補遺〉中世の土地市場は存在したか
第13章 托鉢修道会と貨幣
第14章 ユマニスム、メセナ、金銭
第15章 新本主義か愛徳か
結論

訳者あとがき
原注
参考文献一覧
人名索引

 結論(の一端)は、「中世の貨幣使用は贈与経済に含まれ、貨幣は神の恩寵への人間の全面的な服従に関わっている」、「正当価格理論に見出されるような正義の追求」と「愛徳(カリタス)によって表される精神的要求」。
 「資本主義が誕生したのは中世ではなかったこと、また中世は前資本主義的時代ですらなかったこと」。

 ル=ゴフによれば、長い中世は18世紀前半にまで及んでいる。これは、トレルチの議論を補完するものと解釈できるだろう。

N・T・ライト3

 パウロ研究は、新約聖書学のなかでも大きな焦点・争点となっていますが、ライトはその中心人物の一人で、パウロに関する多くの論文を執筆しています。その論文のいわば集大成ともいえる論集を紹介します。

N. T. Wright,
Pauline Perspectives. Essays on Paul, 1978-2013,
SPCK, 2013.

List of abbreviations
Preface

Part I: Oxford and Cambridge
1 The Paul of History and the Apostle of Faith (1978)
2 Justification: The Biblical Basis and Its Relevance for Contemporary Evangelicalism (1980)
3 Godliness and Good Learning: Cranfield's Romans (1980)
4 A New Tübingen School? Ernst Käsemann and His Commentary on Romans (1982)
5 On Becoming the Righteousness of God: 2 Corlinthians 5.21 (1993)

Part II: Lichfield and Westminster
6 Gospel and Theology in Galatians (1994)
7 Romans and the Theology of Paul (1995)
8 Two Radical Jews: A Review Article of Daniel Boyarin, A Radical Jew: Paul and the Politics of Identity (1996)
9 The Law in Romans 2 (1996)
10 Paul, Arabia and Elijah (Galatians 1.17) (1996)
11 New Exodus, New Inheritance: The Narrative Substructure of Romans 3---8 (1999)
12 Paul's Gospel and Caesar's Empire (2000)
13 The Letter to the Galatians: Exegesis and Theology (2000)
14 The Shape of Justification (2001)
15 Coming Home to St. Paul? Reading a Hundred Years After Charles Gore (2002)
16 Paul and Caesar: A New Reading of Romans (2002)
17 Communication and Koinonia: Pauline Reflections on Tolerance and Boundaries (2002)

Part III: Durham
18 New Perspectives on Paul (2003)
19 Redemption from the New Perspectives? Towards a Multi-layered Pauline Theology of the Cross (2004)
20 Paul as Preacher: The Gospel Then and Now (2007)
21 4QMMT and Paul: Justification, 'Works' and Eschatology (2006)
22 Reading Paul, Thinking Scripture: 'Atonement' as a Special Study (2007)
23 'Christ in You, the Hope of Glory' (Colossians 1.27): Eschatology in St, Paul (2008)
24 Romans9 ---11 and the 'New Perspective' (2009)
25  Whence and Whither Pauline Studies in the Life of the Church? (2010)
26 Justification: Yeasterday, Today and For Ever (2010)
27 Paul and Empire (2010)

Part IV: St Andrew
28 Mind, Spirit, Soul and Body: All for One and One for All --- Reflections on Paul's Anthropology in His Complex Contexts (2011)
29 Paul in Current Anglophone Scholarship (2012)
30 Romans 2.17---3.9: A Hidden Clue to the Meaning of Romans? (2012)
31 Messiahship in Galatians? (2012)
32 Israel's Scriptures in Paul's Narrative Theology (2012)
33 Paul and the Patriarch: The Role(s) of Abraham in Galatians and Romans (2013)

Bibliography
  Works by N. T. Wright
  Other Works
Index of Ancient Sources
Index of Modern Anthors
Index of Selected Topics

 いずれ集中的に検討する機会をもちたいものである。さしあたりは、パウロの演習で使う方向で考えよう。  

プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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