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『学術の動向』から

『学術の動向──科学と社会をつなぐ』 2018. 10(日本学術会議)が届きました。
 後期の授業もすでに数週間がおわり、軌道に乗りつつありますが、学振への応募やそのほかの書類作成で、おもいのほか、忙しくなっています。気候はすっかり秋、急に日が短く朝晩の冷え込みも感じられる京都です。確かに、何かに集中するには、最適の季節というべきでしょう。
 今回は、通常のように、2つの特集によって構成されています。

【特集1】 人文・社会学系研究の未来像を描く─研究の発展につながる評価とは─
 文系(人文・社会系)が財務省・財界・官邸(?)あたりから問題提起され、議論はいまだ継続中ですが、今回の特集は、文系研究者としておおいに関心ある特集です。寄稿の論者も、やや身近な人々を含みますが(「趣旨の説明」になるように、この特集は京都大学でのフォーラムが元になっているようです)、決め手となる議論が存在するでしょうか。文系軽視の実態は、日本の大学発足まで遡る根深い問題です。

・「特集の趣旨」
 (出口康夫)
・「人文・社会科学研究の行方」
 (山極壽一)
・「人文・社会科学研究評価の課題と展望──日本学術会議の成果をふまえて」
 (三成美保)
・「大学評価の現場における人文・社会科学の研究評価の現状」
 (林隆之)
・「誰のための、何のための研究評価か」
 (苅谷剛彦)
・「私立大学にとっての研究評価」
 (田中愛治)
・「人文・社会科学の発展のために──研究評価は可能か?」
 (藤原辰史)
・「研究の量的評価は人文学に対して可能なのか──人間文化研究機構の試み」
 (後藤真)
・「評価について考える──どんな評価が未来志向となるか」
 (狩野光伸・青尾謙)
・「人文・社会科学系の研究力可視化に向けた取り組み──研究推進・研究支援の観点から」
 (稲石奈津子・神谷俊郎)

 宗教研究・キリスト教研究の実情はどうなっているか。

【特集2】 若手科学者が取り組む国際的活動──国際舞台での日本の存在感拡大を目指して
 
 この「日本の存在感拡大」はどの程度の優先度があるのか。

・「若手アカデミーの国際的活動を通して思う「日本国際的プレゼンス拡大」」
 (岸村顕広)
・「Challenges and Visions for Young Scientists」
 (Yong Ho Park)
・「若手科学者にとっての研究の発展に向けた国際交流活動とは」
 (岩崎渉)
・「世界的な学術組織で日本のプレゼンスを発揮する意義」
 (新福洋子)
・「国際ファシリテーター育成ワークショップへの参加と古くて新しいリーダーシップのもと可能性」
 (安田仁奈)

 そのほかに、次の記事が掲載。
・「学協会の今──社会と向き合う6」
 「日本歴史学協会の活動」(木村茂光)
・「提言要旨」3本
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災害・厄災に直面した教育学の可能性

 近代以降の科学技術の進展は、人類をさまざまな自然環境の制約から自由にし、この制約を確実に克服するかにも思われた。しかし、自然環境の制約はますます巨大であることが実感されざるを得ない状況は21世紀も続いており、さらには科学技術自体が大きな側面を伴うことが明らかになりつつある。
 この困難な状況において、人類の進むべき未来を構想することは、特定の諸学科だけでなく、すべての、そして特に、人文系の諸研究分野でも共有された課題であることが自覚されつつある。わたくしが直接関わる宗教研究、キリスト教研究においても、そうであるが、こうした中で、注目すべき論集が、教育学の領域から刊行された。

山名淳・矢野智司編
『災害と厄災の記憶を伝える──教育学は何ができるのか』
勁草書房、2017年。

はじめに(山名淳)
序章 災害と厄災の記憶に教育がふれるとき (山名淳)

第Ⅰ部 場所が語りだす記憶に耳を傾ける
  第一章 〈非在のエチカ〉の生起する場所──水俣病の記憶誌のために (小野文生)
  第二章 東日本大震災における教師の責任──ある保育所をめぐる裁判を事例として (田端健人)
  第三章 災害ミュージアムという記憶文化装置──震災の想起を促すメディア (阪本真由美)
  第四章 広島のアンダース──哲学者の思考に内在する文化記憶装置と〈不安の子ども〉 (山名淳)

第Ⅱ部 厄災を受けとめる思想の作法を探る
  第五章 災害の社会的な記憶とは何か──〈物語〉を〈語り─聴く〉ことの人間学的意味について (岡部美香)
  第六章 厄災に臨む方法としての「注意」──「不幸」の思想家との対話 (池田華子)
  第七章 学校で災害を語り継ぐこと──〈戸惑い〉と向き合う教育の可能性 (諏訪清二)

第Ⅲ部 次世代に伝える課題を重さを考える
  第八章 それからの教育学──死者との関わりから見た教育思想への反省 (矢野智司)
  第九章 問いの螺旋へ──東日本大震災と教育哲学者の語りの作法 (井谷信彦)
第一〇章 カタストロフィーと教育学──いまだ明らかにされていない両者の関係性をめぐって (ローター・ヴィガー) 

終章 厄災ミュージアムの建築プラン──記憶し物語り伝達し公共的に活動する場を目指して (矢野智司)
おわりに (山名淳・矢野智司)

索引

 語り、記憶、公共性など、哲学系の諸分野では共有された問いであり、教育学は「教育」という場に直面しているだけに、より具体的な展開がなされてきたと言うべきか。では、宗教研究は?
 

原発に対するキリスト教

 3.11以降、キリスト教においては、原発について批判的な見解が目立つようになった。昨年は、日本のカトリック教会の公式見解とも言える、次の文献が刊行された。

日本カトリック司教協議会『今こそ原発の廃止を』編纂委員会
『今こそ原発の廃止を──日本のカトリック教会の問いかけ』
カトリック中央協議会、2016年10月。

いますぐ原発の廃止を~福島第一原発事故という悲劇的な災害を前にして~


本書について

第1部 核開発から福島原発事故──歴史的・社会的問題
第1章 核エネルギー(原子力)の利用と被爆の歴史
   1 原子爆弾と被爆・被曝
   2 日本における原子力発電の歴史
   3 原発および関連施設の巨大事故
   4 労働者の被曝
第2章 福島第一原発事故と人間
   1 福島第一原発事故
   2 痛みと苦しみ──原発災害の社会・心理的被害
   3 嘆きと怒り──原発の構造的非人道性
   4 権利と救済──「人間の復興」への道すじ
第1部補足解説
さよなら原発5万人集会・武藤類子さんのスピーチ

第2部 核エネルギー、原子力発電の科学技術的性格
第1章 放射線、核エネルギー、原子力発電
   1 原子核の内部構造と放射線
   2 原子炉と原子力発電
   3 低線量被曝の健康影響
第2章 原子力発電の問題点
   1 原子力発電所の特殊性
   2 過酷事故の性格
   3 災害と防災
   4 核廃棄物の処理
   5 原子力発電のコスト
第3章 福島第一原発事故──圧倒的な災害
   1 福島第一原発で何が起こったか
   2 福島第一原発で何が起こりえたか
第2部補足解説

第3部 脱原発の思想とキリスト教
第1章 核エネルギー利用についての倫理
   1 聖書にみる環境倫理の基礎
   2 キリスト教の伝統における被造物と人間
   3 核エネルギーの登場と人間
   4 現代環境倫理の視点
   5 回勅『ラウダート・シ』
   6 核エネルギーについてのキリスト教的倫理
第2章 他教会・他宗教の視点と取り組み
   1 脱原発先進国の視点
   2 原発問題に取り組む他の司教団
   3 教皇庁の原発問題に対する立場
   4 他教派・他宗教の脱原発動向
第3章 自然エネルギーの可能性
   1 再生可能エネルギーへの転換
   2 地球温暖化防止への取り組み
   3 電気エネルギー依存を減らす
第3部補足解説

結論

参考文献
対話への道筋を求めて
あとがき
索引

 事故当初のやや混乱した対応に比べ、かなり本格的な議論の展開が見られる。やはり、5年程度の時間が必要だったというべきだろうか。だたし、これは議論・対話の出発点であり、到達点ではない。特に、いくつか気になる点が存在する。
・「地球温暖化問題」への分析の必要性。この問題はおもいのほか複雑であり、何が科学的な議論なのか、むしろ政治と経済の論理が議論を動かしているのではないのか、など、「地球温暖化問題」言説への批判なしに、これを単純な科学的事実関係の問題とすると本質を見誤るのではないか。
・原発がだめなら、再生可能エネルギーというのは、ある程度理解可能議論ではあるが、風力発電も太陽光発電もそれぞれに環境との関わりでも大きな問題を抱えていることが指摘され問題化している。キリスト教思想には、エネルギーを基盤とした文明自体の再設計という視点が問われているはずである。本書の言い方でつかえば、「電気エネルギー依存を減らす」という発想である。 
 

原発事故の記憶の問題

 久しぶりに、「大震災・原発関連」のカテゴリの記事を掲載します。
 東日本大震災、福島原発事故から、5年が経過しようとしています。原発事故については収束の見通しも立たないままに5年という年月が過ぎましたが、事故解決に必要なこれからの膨大な時間を思うとき、気が遠くなる想いです。その中で、消されゆく記憶、忘却されてゆく被害者、棄民、といった言葉が、目につきます。
 今回紹介するのは、この日本の現実についてのルポです。

吉田千亜
『ルポ 母子避難──消されゆく原発事故被害者』
岩波新書、2016年。

はじめに

第1章 地震直後──迫られた選択
  3・111/さらに遠くへ/親戚宅で/埼玉へ
  [コラム]事故直後の被爆

第2章 避難生活──劣悪な環境
  築四〇年の団地で/住み替え問題/「帰れ!」/孤独な子育て/生活保護
  [コラム]福島第一原発事故における甲状腺がん

第3章 夫──一人残されたとき
  転々と/東京へ/残された夫
  [コラム]放射能汚染の測定

第4章 作られていくしくみ──被害の矮小化のはじまり
  賠償指針/賠償を元手に/子ども・被災者支援法/「住民票」という問題/閉ざされた新たな自主避難
  [コラム]分離世帯

第5章 なぜ避難者支援が不十分なのか
  法律の基本方針/避難者とは誰か/原発ADR
  [コラム]残った夫たち

第6章 帰還か、避難継続か
  葛藤/帰還/強いられた選択/二〇一四年夏になって初めて/広がる不安
  [コラム]北海道と沖縄

第7章 消されゆく母子避難者
  住宅提供打ち切り報道/「避難する状況にない」/帰還に向けて/市長との対話/泣きながら待つよりも

おわりに

 「棄民」。「彼女ら、彼らの「命」の問題は、もう、たらい回しにはできない。問われているのは、私たち自身だ。」(214)
 日本史は多くの「棄民」たちの声に満ちている。 

 

原発と憲法

 久しぶりに、「大震災・原発関連」の記事を掲載します。最近は、わたくしが運営している別のブログで、現代日本の政治的な問題を扱っている関係で、こちらのブログは、基本的に研究に関連するものに限定されているわけです。
 ただし、このブログが「環境・経済」という問題から当然政治に及ぶものであるため、具体的な事例にふれることは、あり得ることであり、今回は、次の文献を紹介することにします。

小出裕章
『原発と憲法9条』
遊絲社、2012年。

自己責任を果たす──まえがきにかえて

I 原爆・原発と憲法9条

二〇一一年四月一三日『FMわいわい』小出裕章インタビュー
II 私が原子力に反対する根本的な理由
  聞き手/キクチアキ

  ●コミュニティFM放送局『FMわいわい』についての予備知識
  ●二〇一一年四月一三日『FMわいわい』インタビュー

二〇一一年一〇月三一日『FMわいわい』小出裕章インタビュー
III どんなに苦しい事実であっても
  聞き手/キムチアキ
      /溝江玲子

  ●二〇一一年一〇月三一日『FMわいわい』インタビュー


 原発の危険性・問題についての解説はさすがに明晰に説得的です(入門書としてもよいでしょう)。この文献の特徴は、後半がインタビューという形式的なことだけでなく(最初の「I」も、講演がもとになっている印象です)、問題を「憲法」との関連で述べている点です。実際、原発の問題とは、狭い意味での科学技術の問題と言うよりも、政治・経済の問題であり、したがって、憲法の問題に及ばざるを得ないことになります。
 小出さんは、こうした文脈で、ヴァイツゼッカーの『荒れ野の40年』に触れ、ニーメラーに言及しています。

 「ナチスに責任を押しつけるだけでは十分ではない。教会も自らの罪を告白しなければなりません。もし教会は、本当に信仰に生きるキリスト者から成り立っていたならば、ナチスがあれほどの不正を行うことができたでしょうか。」(91)
  
 ニーメラーから小出さんが受け取ったメッセージは、歴史を見つめることが大切である、ということです。事実がどんな苦しいものであっても事実を直視するところからはじめる、そのために必要なのが、事実の歴史的文脈を知ることです。

 2015年8月。原子力と憲法をめぐる問題は相互に並行的に、そして絡みながら進行中であり、現代の日本人は、「お前はどこにいたのか」という問いから逃れることができないはずです。
 本来、人文学とは、こうした問題の歴史的批判的な分析を使命にしているはずであり、だからこそ、今激しい不要論に曝されることになるのである。
プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、内容的にこの科研のテーマ(「自然神学・環境・経済」)に限定されない諸問題を扱うことが多くなったため、本ブログのタイトルと趣旨を変更したいと考えました。新しいタイトルは「自然神学・宗教哲学・自然哲学」となります。もちろん、これまで同様にさまざまな問題を取り上げます。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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