人文社会科学をめぐって

 現在、日本の国立大学においては、文系学部・大学院(人文系、教育系、社会科学系を含む)の縮小・再編の波が押し寄せている。
それに大きく影響したのは、文部科学省が国立大学向けに出した人文系の組織再編を促す通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」(2015年6月8日)であったが、こうした動きは、国立大学法人評価委員会・総会(第48回)H26.8.4の資料「「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点」について」などへ、そしてさらにそれ以前に遡るものである。
 この資料には、次のよう文言が明記されている。
・「ミッションの再定義」を踏まえた組織改革
・教員養成系、人文社会科学系は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換
・法科大学院の抜本的な見直し
・柔軟かつ機動的な組織編成を可能とする組織体制の確立

 こうした動向を受け、この数年来、 人文社会科学系の学部があるかなりの国立大学が学部の再編や定員削減などを検討し、また実施へと動いている。京都大学でも、この動向を踏まえて議論と検討が進められ、それは、次の冊子としてまとめられている。

京都大学
『人を見つめるちから×社会を動かすちから──京都大学人文・社会科学の教育』
2017年3月。

 この冊子の冒頭に掲載の、北野正雄(教育・情報・評価担当理事・副学長)の「挨拶」では、次のように述べられている。
「・・・
本学はこれまで人文・社会科学系学部と大学院における養成する人材像と、その教育課程を積極的に発信することはありませんでした。しかしそのことが、自然科学分野との比較も相まって、人文・社会科学分野の専門性の生かし方に疑義を生じていることの一因であると自省しています。現在の京都大学には、本冊子で御紹介する教育組織のほかに、「文系」の大学院としては公共政策連携研究部/教育部(公共政策大学院)、経営管理研究部/教育部(経営管理大学院)、アジア・アフリカ地域研究研究科、総合生存学館(思修館)が設置されており、さらには人文科学研究所、経済研究所、東南アジア地域研究研究所などの研究所やセンターでも、「文系」の研究・教育支援活動が行われています。・・・しかし、今回は学部と大学院の両方を有している5つの専門教育の部局だけをとりあげ、教育の原点に立ち返り、養成する人材像と教育課程を明確にした上で、検証を行ってきました。
・・・」

この冊子の内容目次は以下の通り。

挨拶 (北野正雄)
刊行にあたって─現代課題に向き合う学生と「フンボルト理念」─ (川添信介)
人文・社会科学教育を何を生み出すか─京都大学のアプローチ─

「対話」が人を育てる─教育組織それぞれの取組─
文学部/文学研究科、教育学部/教育学研究科、法学部/法学研究科、経済学部/経済学研究科、総合人間学部/人間・環境学研究科

資料
1.学部/大学院 三つのポリジー
2.学部コースツリー/大学院コースツリー・カリキュラムマップ
3.研究、社会貢献、組織改革に係わる実績

 国立大学は国民の貴重な財産なわけであるが、現在の変容の方向は、国民にとって有益なのであろうか。
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キリスト新聞から

キリスト新聞 (第3442、2017. 5. 27) が届きました。今週は先週よりはましなスケジュールと思ってましたが、会議や研究会と、どんどん、空き時間に予定が入ってしましました。先ほどは、昨日届いた、書評原稿を校正しました。

<第一面>
・「24年ぶりの展示 『バベルの塔』の時代と魅力」「寄稿 真下弥生(ルーテル学院大学・東京神学大学非常勤講師)」
 「見る者の想像力を解放する描写」「宗教改革前後の閉塞感と混乱も」
 「上野の東京都美術館で7月2日まで開催中の「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲルの『バベルの塔』展」。

 ともかく有名な作品であるが、6月から7月初旬は、2回東京出張が予定されているので、その機会に見ることはできないこともないだろう。24年ぶりでもあるし。

「Headline/ヘッドライン」:
・「教皇がファティマで2人を列聖」
・「イスラム教国インドネシアで 世界最大のキリスト像建設計画」
・「ラオスとベトナムで宗教移動者ら WCRP/RfP日本委の招待で交流」
・「日基教団京都南部地区社会部 「共謀罪」法案廃案求め緊急声明」

<第二面>
「Topics/トピックス」:
・「社会」:「抵抗権を思想とする精神鍛えよ」「渡辺信夫が長老教会社会委の学習会で講演」
 「信仰に基づく抵抗権」と題して、5月6日、日本長老教会社会委員主催のヤスクニ学習会。お茶の水クリスチャンセンターにて。

・「社会」:「原発廃止はエキュメニカルな課題」「日本キリスト教連合会総会に光延一郎氏」
 5月9日、日本聖公会牛込聖公会バルナバ教会で、「原発のない世界を求めて、キリスト者として考えるために──『今こそ原発廃止を』カトリック教会の問いかけから」と題し講演。

・「教会」:「教派超え「発信」のあり方問い直す」「教会的「宣教会議」セミナー2017」
 「発信」のあり方を問い直そうという研修会「教会的『宣教会議』セミナー2017」が、5月3日、ウェスレアン・ホーリネス教団浅草橋教会で開催。「視点を変えれば伝え方が変わる」という総主題のもと、松谷信司、丸山泰地の両氏が登壇。

・「社会」:「寺社フェス「向源」に牧師も参加」「〝仏教でも同じテーマ追う僧侶が〟」
 日本の伝統文化を体験できる寺社フェスティバル「向源」が5月6日、7日に、中目黒の正覚寺で開催。スタッフとして参加の伊藤大輔さんは、「牧師と話そう」にも出演。

「Satellite/サテライト」:
・「持続可能な社会の構築目指し「環境セミナー」始まる」
・「WCRP日本委が京都で「ヒバクシャ国際署名」」
・「「アンネ・フランク展」今治市の教会で遺品展示」
・「「アンネの形見のバラ」 西宮市の教会で花開く」
・「五島市がプロモ動画 ドローン使って撮影」
・教育「関西聖書神学校入学式 鎌野直人新校長が説教」

<第三面>
「終活:なんでも相談室Q&A」
Q:「「喪主」になる資格は誰に?」
A:「厳密な決まりや法的縛りはない。」
 今回のお相手:一ノ瀬健太さん(株式会社ライフワークス社 本社統括マネジャー)

 金銭トラブルを避けるために。

・連載「 『沈黙』への道、 『沈黙』からの道──遠藤文学を読み解く」:金承哲(南山大学)
 「16 『侍』」
 「決断ないまま受洗した遠藤の自画像」

 「遠藤はこの作品の中で、長谷倉のことをいつも「侍」と呼ぶ」、「固有名詞を避けて彼を特定の歴史的人物という枠から外すことによって、この「侍」が遠藤自身の自画像でるとのことを表すため」
 「「不純な動機」によって洗礼を受けた侍」「「彼らの受洗に万が一、そのような不純な動機があったとしても、・・・主は彼らを決して見放されはしない。」

 道徳もそうだが、宗教でも、動機は、一つの議論の争点となる。宗教はここで、「にかかわらず」へと踏み出す。

<第四面>
・SONO「教派擬人化マンガ ピューリたん」46
 「アプリゲーム化決定」「大事なお知らせ」

 「ペンテコステ(6/4)までに目標額を達成できれば、ピューリたん達にキャラボイスが付く」らしい。

演習より

 大学における思想系の授業は、講義と演習(講読、ゼミ)というタイプに大別されてきたと言えるが、あえてどちらに中心があるかと言えば、大学院の場合は、明らかに演習にあると言ってよいだろう。もちろん、講義は、授業を提供する側から言えば、準備のためにかなりの時間を必要とし、やりがいがあることは事実であるが、しかし、授業としては、特に授業を受ける学生の側から言えば、演習にこそ、力を注ぐべきものと言わねばならないであろう。研究指導と言えるものは、演習を介して行われる点も演習の重要性を示している。というわけで、演習が充実していないと、今年度は授業がなにか今ひとつといった感覚になる。

 今年度前期も、イントロダクションを経て演習がスタートし、軌道に乗りつつある時期であるが、演習を行って不思議な感覚になるのは、別々に選択していたはずのテキストが相互に結びついていることを発見するときである。現在は、ティリッヒについて、アメリカ亡命期の講義録(ドイツ語)と後期の文献(日本語訳での講読)の二つ、そしてそれに南原繁の文献を加えて、三つのテキストを読んでいる。ティリッヒの二つのテキストは、同じ人物(時期は異なるが)のものであり、結びつきは当然であるが、意外にも多くの接点や類似点が見られるのが、ティリッヒと南原の間である。最近の例で言えば、近世・近代の思想状況、特に人間理解に特徴を論じる際に、ティリッヒと南原はきわめて近い議論をおこなっており、しかも、二人ともストア派に注目していることがわかる。
 よくよく考えれば、両者の諸前提や関心の重なりから判断すれば、それほど驚くべきことではないわけであるが、別々の演習で、ほとんど同じ時期に異なる思想家の類似の思想を実際に目にすると、不思議な感覚が生じてくる。ティリッヒと南原は、両者を本格的に結びつけた仕方での研究が可能ではないか、これが最近の実感である。たとえば、全体主義論などは、アーレントも加えて、ぜひ議論してみたいテーマである。
 演習は、教師の側でも多くの発見があり、そこから新しい研究が展開する現場となるわけである。

『学術の動向』 から

『学術の動向』 2017. 5 (日本学術会議)が届きました。
 今回は、通常通り、二つの特集による構成ですが、そのほかにも、興味深い論考が掲載されています。

【特集1】安全保障と学術の関係
・「安全保障と学術に関する検討委員会 審議報告」 (杉田敦)
・声明と報告要旨「文事的安全保障研究に関する声明」 平成29年3月24日 日本学術会議 安全保障と学術に関する検討委員会
・「学術がたどった歴史から学ぶ」 (兵藤友博)
・「「学術のため」という視点」 (須藤靖)
・「経営技術論的視点から見たデュアルユース」 (佐野正博)
・「軍民両用(デュアルユース)研究とは何か─科学者の使命と責任について─」 (福島雅典)
・「防衛技術とデュアルユース」 (西山淳一)

 ここ数年来、議論が行われてきた、日本学術会議での、軍事研究に関わる論争の報告とそれに関わる特集である。日本学術会議としては、従来の基本方針の堅持という結論でまとまったわけであり、それは大きな論争の成果と言える。しかし、アメリカ軍からの研究費がすでに大学に大きく入っている問題など、またこの特集のポイントに一つであるデュアルユース問題は、まだまだ今後の議論が必要なものである。次の方向性は考慮すべきと思われる。

「民生研究組織におけるこうしたデュアルユース・ジレンマ問題の深刻化を回避するためには、民生目的研究と軍事目的研究の両方を同一組織で同時に遂行するのではなく、組織分離を図ることが必要かつ有用である。」(佐野、36)
また、
「スペインの偉大な哲学者、オルテガの言葉でもって締めくくりたい。
 大学は科学によって生きねばならない。科学は大学の魂である。・・・人は、時代の高さに、なかんずく、時代の理念の高さに生きなければならない。」(福島、47)

【特集2】これからの社会のおけるケアサイエンスの構築をめざして
・「これから社会におけるケアサイエンスの構築をめざして─看護学からの提案─」
  日本学術会議健康・生命科学委員会看護学分科会・ケアサイエンス班:西村ユミ・太田喜久子・数間恵子・川口孝泰・古在豊樹・小松浩子・正木治恵
・「ケアとしての科学─科学哲学。公共政策の立場からみたケアサイエンスの必要性」 (広井良典)
・「ケアサイエンスは何か─当時事者の視点から」 (上野千鶴子)
・「社会的ロボティクス(関係性を促すロボット開発)の立場からみたケアサイエンスの必要性への見解」 (岡田美智男)

 宗教にとっても、かなり重要な議論になっている。

 ここまでが特集であるが、その他に次の記事・論考が収録。

・「速報 熊本地震・一周年報告会─熊本県・防災学術連携体と共同で開催」 (米田雅子)

【持続可能な開発目標に関する国際会議】
・「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた超学際研究とマルチステークホルダー協働の推進」 (武内和彦・蟹江憲史)

 ここでのキーワードは、開発と環境・持続可能との関係ということになるが、「開発」という論点は、さまざまな特に人文学からの議論が必要ではないか。

そして、今回もっとも重要なものと思われたのは、次の論考である。
・「ノーベル賞フィーバーの裏で─わが国の学術研究の危機の打開に認識と発想の転換を」 (岡田泰伸)
 はじめに/1..2000年以降に抑えられてきた学術・科学技術予算と低下し続ける学術研究力/2.国立大学運営費交付金削減”実験”が研究現場にもらたした「結果」/3..国の「借金」と少子化・人口減問題の解決の王道/まとめ

 「1」と「2」で指摘された現実はきわめて深刻。特に自然科学系の基礎研究は大変な事態を迎えつつある。人文学系は、そもそも明治以来、予算的な優遇を受けずに続けられてきたため、こうした動向に対する耐久力は自然科学系より高いかもしれない(京都大学のキリスト教学は、教員の定員2名ではあるが、基本的には1名で運営してきてきた。というわけで1名になったからといって、右往左往することはない)。しかし、人文系もそろそろ限界点に達しつつある。

 「3年続きの日本時ノーベル賞受賞によって、人々はわが国の学術研究力の高さが、現在も誇れる状態にあると誤解している」(99)。これは、マスコミの作為か不作為(無知)か。

 実態は、「世界有数の経済大国・科学技術大国と自称してきたわが国の研究力は、2000年~2003年をピークにそれ以降甚だしく低下していき、現状は無残ともいえる状況にある」(97)。
 根本的な政策転換が求められる。

キリスト新聞から

キリスト新聞 (第3441、2017. 5. 20) が届きました。2週間ぶりのキリスト新聞です(連休をはさんだためでしょうか)。連休前から連休あけにかけて、世界情勢は、いくつかの危機的な局面を迎えていましたが、ともかくも、乗り切った、あるいは先送りしたようです。一方で忙しい日常はあいかわらず継続中です。

<第一面>
・「エジプト 教会爆破テロ受け一致へ」「教皇や各首長会談で追悼式典、共同宣言」
「コプト正教会〝信仰守り通す決意〟」「教皇〝神との契約が平和の基礎〟」
 「教会を狙った自爆テロに、エジプト全土が震撼している」「4月9日」

 アフリカで何が起こりつつあるかについて、キリスト教・宗教多元性の観点からも、注目すべきであろう。経済と政治は大切であるが、それだけでは理解が「薄く」「浅く」なる。

「Headline/ヘッドライン」:
・「A・プランティンガ氏にテンプルトン賞」
    当然と言えば当然。
・「幼児の心を国家が操作する危険性指摘 同盟教団「教会と国家」委が抗議声明」
・「「共謀罪新設の必要なし」法案廃止求め改革派教会が声明」

<第二面>
「Topics/トピックス」:
・「教会」:「〝多様性の一致に努めた60年〟」「徳善義和氏にエキュメニカル功労賞」
 日本エキュメニカル協会の「エキュメニカル功労賞」の第23回顕彰者に、徳善義和氏が選ばれた

 長年の働きに感謝したいと思います。

・「教会」:宗教改革500年を将来へ伝える」「日本ルーテル教団が記念礼拝、小冊子も発行」
 宗教改革500年を記念する礼拝を、5月3日、東京ルーテルセンター教会で行った。

 今年は、こうした記念企画が日本でも多く行われるだろう。500年はよい機会である。しかし、歴史の過去の出来事として記念するということ以上のことが求められているようにも思われる。

・「歴史」:「昭和初期の宣教師夫人の実像紹介」「明治学院歴史資料館が『東京がたり』刊行」
 『東京がたり』。米国長老教会海外伝道局が無料配布用に作成した小冊子を日本語訳したもの。昭和初期に東京で活動していた宣教師らのエッセイを収録。

 新しい資料が利用可能になることは、喜ばしいことである。 

「Satellite/サテライト」:
・「日本ナザレン教団本部 耐震補強・修繕工事へ」
・「社会鍋俳句コンテスト 救世軍が入賞作を発表」
・「教育勅語の教材使用 国際友和会日本支部が抗議」
・「閣僚らの靖国参拝などに 同盟「教会と国家」委が抗議」
・「広島流川教会の定礎板 原爆の恐ろしさ伝える」
・「『新カトリック大事典』オンラインの単体利用も」
・訃報「秋田稔(あきた・みのる)さん」

<第三面>
「終活:なんでも相談室Q&A」
Q:「ペットの葬儀はできる?」
A:「葬儀を模したかたちで。」
 今回のお相手:青木義紀さん(日本同盟基督教団和泉福音教会牧師)

 宗教研究の分野では少し前から問題とされてきたこと。しかし、人間の方の葬儀をとこかくもなんとかする必要がある。

・連載「 『沈黙』への道、 『沈黙』からの道──遠藤文学を読み解く」:金承哲(南山大学)
 「15 『悪霊の午後』」
 「「心のなか」に存在する抑えつけられた欲望」

 無意識・欲望は、宗教を問いときに、はずせないテーマとなっている。キリスト教的には、欲望は被造性(善)と堕罪(悪)の境界領域に存在する。現代思想は、これに対してしばしば心理学的・分析的な手法でアプローチするが、これと伝統的なキリスト教的知との関連づけは、一定の蓄積はあるが、本格的にはまだまだの感がある。ここにも課題がある。
プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、今後開設の別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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