キリスト教と資本主義あるいは貨幣

 キリスト教と近代世界との関わりは、大きな研究テーマでありさまざまな切り口が可能である。その一つに、キリスト教と近代資本主義との関係をめぐる問題が存在するが(有名なウェーバー・テーゼはこの問題に関わる)、議論は、近代では収まらない射程から、少なくとも中世との関わりに遡及することが必要であり、緻密かつ大胆な歴史的思索が要求される。
 今回は、こうした点で、現代の中世史研究の大家であり、貨幣論でも有名なル=ゴフの著書を取り上げたい。

ジャック・ル=ゴフ
『中世と貨幣──歴史人類学的考察』
藤原書店、2015年。


第1章 ローマ帝国とキリスト教化の遺産
第2章 カール大帝から封建制へ
第3章 十二世紀末から十三世紀初頭にかけての貨幣の急増
第4章 貨幣の最盛期としての十三世紀
第5章 十三世紀の商業革命における交易、銀、貨幣
第6章 貨幣と揺籃期の国家
第7章 貸付、債務、高利貸し
第8章 新たな富と貧困
第9章 十三世紀から十四世紀へ、貨幣の危機
第10章 中世末期における税制の完成
第11章 中世末期の都市、国家、貨幣
第12章 十四、十五世紀の物価、賃金、貨幣
  <補遺>中世に土地市場は存在したか
第13章 托鉢修道会と貨幣
第14章 ユマニスム、メセナ、金銭
第15章 資本主義か愛徳か
結論

訳者あとがき
原注
参考文献一覧
人名索引

 おそらく、この分野の基礎文献の一つとなるだろう。中世研究の面白さを実感させる研究書である。キリスト教研究にとっても。
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日本人はどこへ、日本宗教はどこへ行く

 日本の宗教の近未来像は、決して明るくない。これは、1960年代の世俗化論の論調における暗さではなく、もっと質の違う問題状況である。そもそも、日本人は減少するという人口動向に基づく近未来像である。1960年代は、高度経済成長期で、日本人の人口も増加の中にあった。しかし、21世紀に入り、耳にするようになったのは、日本自体の縮小であり(その延長には東アジアの縮小も控えている)、日本宗教の基盤であった、日本人コミュニティーの縮小・消滅が、現実味をおびて実感されるようになてきている。
 
 昨年、『寺院消滅』で話題となった著者による、新刊であり、こっちはさらにすごいことになっている。

鵜飼秀徳
『無葬時代──彷徨う遺体、変わる仏教』
日経BP社、2016年。

はじめに

第一章 彷徨う遺体と遺骨
  火葬一〇日待ちの現実/遺体ホテルが繁盛する時代/増える遺体、棄てられる遺骨/超高齢社会が招く孤独死の悲劇/孤独死現場を「リセット」する人たち

第二章 変わりゆく葬送
  葬儀の葬儀場/都心のビルに一万基の遺骨/日本海に浮かぶ散骨島/理想の墓が新潟にあった/無数の遺骨を集めて仏像に/お坊さん便、食えない僧侶を走らす/仏具屋が見る「寺院消滅」

第三章 縁を紡ぐ人々
  孤独死を防ぐ縁のかたち/路上生活者を供養する僧侶/難民キャンプに図書館を/地域再生と寺院/都市と地方の寺院をつなぐ

第四章 仏教存在の意義──佐々木閑氏に聞く
  日本仏教の特殊な成り立ち/今を生きる人のための仏教/社会の受け皿としての仏教/「律」の精神で現代日本を見直すと/本質ではなく、かたりが変わってゆく

おわりに

資料編
参考文献

 「二〇一五年の死亡数は約一三〇万人。この数字は今後二五年間ほど増え続け、二〇三〇年には一六〇万人を突破すると予想される。鹿児島県の人口(約一七〇万人)と同等の人が毎年、死んでいくのである。」(2)
 「死を受け入れる現場では、すでに様々な「前兆現象」が始まっている。都会の火葬場では炉が一杯で、待機状態が一週間から一〇日にもなっているという。・・・「火葬待ち」は、まだいいほうだ。多死社会がもたらす「哀しい最期」。それが、孤独死である。」(3)

 第一章、第二章は、厳しい現実と仏教の動向である。ここまでは暗い。第三章はこの現実に対する対応であり、そこにはキリスト教会も参考にすべきことがある。最後の第四章は、そもそも発想の転換の問題であり、著者と仏教学者佐々木さんとの対談です。
 佐々木さんとは何度かご一緒したことがあるが、仏教についての見方を正される感がした。

経済の神学8

 今回で、「経済の神学」の文献のまとめは、区切りとなります。
 最後に、指摘しておきたいのは、「経済の神学」と環境論との関わりです。1980年代以降の「経済の神学」の特徴は、人間の経済的営みと環境危機との関連性、また環境を論じる上での経済的視点の重要性、といった論点が明確に意識されていることにあります。これは、キリスト教思想に止まらず、宗教思想全般に広範に見られる問題意識であり、現代におけてキリスト教環境論を論じる上で留意すべき点と言えます。

Craig L. Blomberg,
Christians in an Age of Wealth. A Biblical Theology of Stewardship,
Zondervan, 2013.

 これは、聖書学的な視点で、経済活動・富を論じたものであり、そこにStewardshipが組み合わされるという主張です。

Paul F. Knitter & Chandra Muzaffer (eds.),
Subverting Greed. Religious Perspectives on the Global Economy,
Orbis Books, 2002.

 これは、キリスト教だけでなく、さまざまな立場からの論考が所収された論集ですが、キリスト教思想からは、マクフェイグの次の論考が収録されています。

Sallie McFague,
"God's Household: Christianity, Economics, and Planetary Living "
pp.119-136.

経済の神学7

 「経済の神学」の展開において、重要になるのは、グローバル化という歴史的プロセスの展開です。現代のグローバル化は少なくとも、近代的な世界システムの展開過程に位置するものであり、急に1980年代に始まったことではありません。では、1980年代に顕在化した(人類の日常的な意識に到達した)グローバル化とは何かと言えば、それは人間の活動の地球規模での相互依存性・相互連関という事態です。人間の活動がその負の側面において地球規模で繋がっていること、経済危機、環境危機、そして戦争が地球上ですべて相互に連動していることが、1980年代ごろからわたしたちが実感としてもつにいったことではなかったでしょうか。すでにわたしたちは、地球規模の負の連関の中に投げ込まれている、手の汚れていない人は一人もいない。これは、まさにキリスト教思想が原罪として問うてきた人間的現実にほかなりません。つまり、人類の共犯性の問題です。
 このように見てくると、「経済の神学」のキーワードの一つが「共犯」(complicity)であることも理解可能になります。
 すでに、本ブログで取り上げた文献に次のものがりますが、これらは、経済的共犯性からキリスト教倫理を問題にする点で、共通しています。

Albino Barrara,
Market Complicity and Christian Ethics,
Cambridge University Press, 2011.

Daniel K. Finn (ed.),
Distant Markets, Distant Harms. Economic Complicity & Christian Ethics,
Oxford University Press, 2014.

遠く離れた地域における危機に、わたしたちが実際に繋がっている、責任を負っているという感覚は、現代のキリスト教倫理を考える上で、重要な意味があります。しかし、それが、「世界の警察意識」に転落しない限りにおいてですが。

経済の神学6

 「経済の神学」の続きです。現在のキリスト教思想において、経済が活発な議論の対象となってきたことの背景には、リーマン・ショック(2008年)が存在していることは疑いないが、その前後から、経済の神学いうべき動向が顕著になっていることには留意すべきであろう。
 たとえば、すでに本ブログでも紹介の次の文献である。
 
Ronald J. Sider,
In an Age of Hunger,
Thomas Nelson, 2005.

Douglas A. Hicks,
Money Enough. Everday Practices for Living Faithfully in the Global Economy,
Jossey-Bass, 2010.

 グローバル化する経済と、それを主導する新自由主義。こうした状況が、富の遍在と貧困の蔓延という問題を深刻化し、キリスト教思想における取り組みを求めているのである。経済をめぐる神学的思索は、もはや周辺的な課題ではなく、さまざまな問題と結び付くことによって、大きな問題群を構成しているのである。
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Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、今後開設の別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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