認知資本主義とは何か

 久しぶりに、経済関係の文献を紹介します。本ブログなどで、わたくしはしばしば、「認知資本主義」という用語を使うことがありますが、まだ一般化しているとも言えないやや特殊な用語でもあり、文献紹介をいたします。
 認知資本主義という用語は、その内容がイメージしにくいという点で、別のネーミングが必要とも思われますが、日本において、社会主義が理論的にも実践的にも退潮に向かう、1970年代ごろから、特に1980年以降、ヨーロッパの社会主義の理論的変革の中で生じた、資本主義の新しい形態への分析用語として登場した。それは、マルクスやレーニン、そして戦後の日本の社会主義も主にイメージしていた労働や労働者が、特に先進国における労働や資本の実態との間でズレを生じているという点に関わっている。この資本と労働の変容を理論化できないことが、社会主義退潮に密接に関わっているという認識である(日本における労働組合の退潮はその典型)。というわけで、認知資本主義という理論構想が登場し、日本でも21世紀の初頭頃から、紹介され始めた。

山本泰三編
『認知資本主義──21世紀のポリティカル・エコノミー』
ナカニシヤ出版、2016年。

序論 (山本泰三)

第一章 認知資本主義──マクロレジームとしての特徴と不安定性
      (内藤敦之)
第二章 労働のゆくえ──非物質的労働の概念をめぐる諸問題
      (山本泰三)
第三章 認知資本主義と創造都市の台頭
      (立見淳哉)
第四章 コモンにおける真正性の試験と評価──テロワール・ワインと有機農産物を事例に
      (須田文明)
第五章 企業と動態能力──日本企業の多様性分析に向けて
      (横田宏樹)
第六章 コーチングという装置──認知資本主義における労務管理?
      (村越一夫・山本泰三)
第七章 クリエーターの労働と新しい地域コミュニティ
      (今岡由季恵)
第八章 ドイツの労働組合による組織化戦術の新展開
      (北川亘太・植村新)
第九章 「持続的本源的蓄積」としての研究開発──ネオコロニアリズムと研究者のプリカリアート化の関係について
      (春日匠)
第十章 認知資本主義と統治──貨幣が国家から離れるとき
      (中山智香子)

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事項・人名索引

 都市の知識労働者、労務管理ということが、現在日本において提唱される働き方改革と重なること、労働組合の新形態と地域コミュニティーとが関連付けられること、そして仮想通貨の登場など、これらは現在の日本の状況と認知資本主義の問題意識とが無関係でないことを示している。新自由主義経済・帝国の登場が、新しい社会理論の形成を必要としているということであり、キリスト教思想が社会という文脈との関わりを保持しようとするならば、視野に入れる必要がある動向である。
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賀川豊彦とキリスト教的な政治経済論

 賀川豊彦は、キリスト教社会主義あるいはさまざまな協同組合運動との関わりを含めたキリスト教思想と実践で著明な人物であり、今後正当な再評価が必要と思われる(徐々にそうなりつつあると言えるだろうか)。
 今回、取り上げるのは、英語で出版され、長い間、日本語訳がなかった文献で、賀川が新川スラムで活動を開始してから100年を記念し、邦訳されたものであり、賀川のキリスト教的な政治経済理論を知るには、重要なテキストである。

賀川豊彦
『友愛の政治経済学』(加山久夫・石部公男訳)
日本生活協同組合連合会、2009年。

監修者 まえがき (野尻武敏)

序文
第1章 カオスから抜け道はあるのか
第2章 キリストと経済
第3章 唯物論的経済観の誤り
第4章 変革の哲学
第5章 世々を貫く兄弟愛
第6章 現代の協同組合運動
第7章 兄弟愛の講堂
第8章 協同組合国家
第9章 友愛に基づく世界平和

参考文献
訳者あとがき
索引

 邦訳が刊行された時期は、リーマンショック(2008年)の直後であり、民主党政権が誕生した頃であって、キリスト教的経済論の見直しなされ、「友愛」(Brotherhood)という言葉が新鮮に受け止められた。賀川の再評価は、このころから、目立ち始めたように思われる。
 わたくしは、この邦訳が出版されたときに、それを購入し所蔵していたが、その後行方不明になったため(どなたかにお貸しして、まだ返却されていない?)、今回、再度入手することになった。2018年度は、演習で賀川を取り上げる予定である。

キリスト教と資本主義あるいは貨幣

 キリスト教と近代世界との関わりは、大きな研究テーマでありさまざまな切り口が可能である。その一つに、キリスト教と近代資本主義との関係をめぐる問題が存在するが(有名なウェーバー・テーゼはこの問題に関わる)、議論は、近代では収まらない射程から、少なくとも中世との関わりに遡及することが必要であり、緻密かつ大胆な歴史的思索が要求される。
 今回は、こうした点で、現代の中世史研究の大家であり、貨幣論でも有名なル=ゴフの著書を取り上げたい。

ジャック・ル=ゴフ
『中世と貨幣──歴史人類学的考察』
藤原書店、2015年。


第1章 ローマ帝国とキリスト教化の遺産
第2章 カール大帝から封建制へ
第3章 十二世紀末から十三世紀初頭にかけての貨幣の急増
第4章 貨幣の最盛期としての十三世紀
第5章 十三世紀の商業革命における交易、銀、貨幣
第6章 貨幣と揺籃期の国家
第7章 貸付、債務、高利貸し
第8章 新たな富と貧困
第9章 十三世紀から十四世紀へ、貨幣の危機
第10章 中世末期における税制の完成
第11章 中世末期の都市、国家、貨幣
第12章 十四、十五世紀の物価、賃金、貨幣
  <補遺>中世に土地市場は存在したか
第13章 托鉢修道会と貨幣
第14章 ユマニスム、メセナ、金銭
第15章 資本主義か愛徳か
結論

訳者あとがき
原注
参考文献一覧
人名索引

 おそらく、この分野の基礎文献の一つとなるだろう。中世研究の面白さを実感させる研究書である。キリスト教研究にとっても。

日本人はどこへ、日本宗教はどこへ行く

 日本の宗教の近未来像は、決して明るくない。これは、1960年代の世俗化論の論調における暗さではなく、もっと質の違う問題状況である。そもそも、日本人は減少するという人口動向に基づく近未来像である。1960年代は、高度経済成長期で、日本人の人口も増加の中にあった。しかし、21世紀に入り、耳にするようになったのは、日本自体の縮小であり(その延長には東アジアの縮小も控えている)、日本宗教の基盤であった、日本人コミュニティーの縮小・消滅が、現実味をおびて実感されるようになてきている。
 
 昨年、『寺院消滅』で話題となった著者による、新刊であり、こっちはさらにすごいことになっている。

鵜飼秀徳
『無葬時代──彷徨う遺体、変わる仏教』
日経BP社、2016年。

はじめに

第一章 彷徨う遺体と遺骨
  火葬一〇日待ちの現実/遺体ホテルが繁盛する時代/増える遺体、棄てられる遺骨/超高齢社会が招く孤独死の悲劇/孤独死現場を「リセット」する人たち

第二章 変わりゆく葬送
  葬儀の葬儀場/都心のビルに一万基の遺骨/日本海に浮かぶ散骨島/理想の墓が新潟にあった/無数の遺骨を集めて仏像に/お坊さん便、食えない僧侶を走らす/仏具屋が見る「寺院消滅」

第三章 縁を紡ぐ人々
  孤独死を防ぐ縁のかたち/路上生活者を供養する僧侶/難民キャンプに図書館を/地域再生と寺院/都市と地方の寺院をつなぐ

第四章 仏教存在の意義──佐々木閑氏に聞く
  日本仏教の特殊な成り立ち/今を生きる人のための仏教/社会の受け皿としての仏教/「律」の精神で現代日本を見直すと/本質ではなく、かたりが変わってゆく

おわりに

資料編
参考文献

 「二〇一五年の死亡数は約一三〇万人。この数字は今後二五年間ほど増え続け、二〇三〇年には一六〇万人を突破すると予想される。鹿児島県の人口(約一七〇万人)と同等の人が毎年、死んでいくのである。」(2)
 「死を受け入れる現場では、すでに様々な「前兆現象」が始まっている。都会の火葬場では炉が一杯で、待機状態が一週間から一〇日にもなっているという。・・・「火葬待ち」は、まだいいほうだ。多死社会がもたらす「哀しい最期」。それが、孤独死である。」(3)

 第一章、第二章は、厳しい現実と仏教の動向である。ここまでは暗い。第三章はこの現実に対する対応であり、そこにはキリスト教会も参考にすべきことがある。最後の第四章は、そもそも発想の転換の問題であり、著者と仏教学者佐々木さんとの対談です。
 佐々木さんとは何度かご一緒したことがあるが、仏教についての見方を正される感がした。

経済の神学8

 今回で、「経済の神学」の文献のまとめは、区切りとなります。
 最後に、指摘しておきたいのは、「経済の神学」と環境論との関わりです。1980年代以降の「経済の神学」の特徴は、人間の経済的営みと環境危機との関連性、また環境を論じる上での経済的視点の重要性、といった論点が明確に意識されていることにあります。これは、キリスト教思想に止まらず、宗教思想全般に広範に見られる問題意識であり、現代におけてキリスト教環境論を論じる上で留意すべき点と言えます。

Craig L. Blomberg,
Christians in an Age of Wealth. A Biblical Theology of Stewardship,
Zondervan, 2013.

 これは、聖書学的な視点で、経済活動・富を論じたものであり、そこにStewardshipが組み合わされるという主張です。

Paul F. Knitter & Chandra Muzaffer (eds.),
Subverting Greed. Religious Perspectives on the Global Economy,
Orbis Books, 2002.

 これは、キリスト教だけでなく、さまざまな立場からの論考が所収された論集ですが、キリスト教思想からは、マクフェイグの次の論考が収録されています。

Sallie McFague,
"God's Household: Christianity, Economics, and Planetary Living "
pp.119-136.

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Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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