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脳科学と宗教

 1980年代頃から、宗教研究の分野でも、脳科学と関連付けた研究が行われるようになり、現在に立っている。20世紀のこうした研究を代表する、ニューバーグの著作は、日本でも紹介されてきているが、今回取り上げるのは、ウォルドマンとの共著で一般向けの読みやすい著作である。

アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン
『「悟り」はあなたの脳をどのように変えるのか──脳科学で「悟り」を解明する』
ナチュラルスピリット、2019年。

賛辞
著者のノート

Part 1 悟りの根源
1 問題児の悟り
2 悟りとは?
3 悟るときにはどう感じるのか
4 神なしの悟り
5 人の認識の段階

Part 2 悟りへの道
6 超自然の存在をチャネリングする
7 他人の意識を変える
8 ハートをワンネスに向けて開く
9 自己変革を信じるということ

Part 3 悟りに向けて動く
10 悟りの準備
11 体験を激しいものにする
12 万人向けの祈り

付録 悟りを導くためのツールとソース
参考文献
訳者あとがき

 本書は、悟りをめぐる脳科学的な研究の紹介と言うよりも、そうして得られた知見に基づく悟りの勧めといった内容である。わかりやすいが、ややスピリチュアリティ系とでも言うべきものであり、その辺で評価が分かれるかもしれない。
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脳科学の射程

 脳科学は、現在きわめて広範な問題領域をまきこんで展開中である。その中には、宗教研究も含まれる。宗教研究と脳科学とを関連づける上で注目すべきテーマはいくつか考えられるが、その一つは、病であろう。病における身体と心の繋がりあるいは人格は、脳と宗教とに共通の問題であり、両方の研究分野の知見を相互参照することは、有益な展開を可能にするかも知れない。そうした中で、次の文献は、興味深い問題を提起している。

恩蔵絢子
『脳科学者の母が、認知症になる──記憶を失うと、その人は〝その人〟でなくなるのか?』
河出書房新社、2018年。

はじめに 医者ではなく脳科学者として、母を見つめる

1 六五歳の母が、アルツハイマー型認知症になった
2 アルツハイマー型認知症とはどんな病気か
3 「治す」ではなく「やれる」ことは何か──脳科学的処方箋
4 「その人」らしさとは何か──自己と他者を分けるもの
5 感情こそ知性である

おわりに 父母と竿灯まつりに行く

参考文献

 認知症は、人間の核心的問題を問うている。その人は何者か、わたしとは何者か、人格とは知性とは。
 人格やその人らしさという問題は、個に集約できる問題ではなく関わり・関係性を視野に入れる必要がある。「認知能力が失われても、残るものは何か」との問いは重い。「感情こそ知性である」「感情が知性を生み出している」が脳科学の知見であるとすれば、それは宗教研究から遠くない。

ゲノム編集と現在

 ゲノム編集された受精卵からの子供の誕生というニュースが世界を駆け巡ったのは、ちょうど1年前である。この間、キリスト教の議論はどのように深まり展開したのだろうか。また、日本における法的な対応はどこまで進んだのだろうか。
 このうち、後者の日本の法をめぐる問題に関連して、朝日デジタルの次のような記事が掲載された。最初の部分を引用したい。

「ゲノム編集して妊娠、禁止へ デザイナーベビー懸念」

「ゲノム編集技術を人間の受精卵に使い、子宮に戻す臨床利用について、厚生労働省の専門委員会は4日、禁止するための法規制を含めた制度をつくるべきだとする報告を大筋でまとめた。政府は、具体的な規制の内容について検討し、法律や指針づくりを進める。
・・・」

 この一年間の動きを、どう評価するかは様々と思われるが、日本の議論・取り組みがきわめてゆっくりであり、本当に、ゲノム編集の問題へ対応できるのか、不安になるのは、わたくしだけであろうか。法や制度というレベルではなく、指針による対処、というパターンはよく聞くものであるが、すべてこれで問題なしとするのだろうか。

科学技術の光と影

 科学技術は、現代のわたしたちの生活に欠くべからざるものであり、その意義については、ほとんど説明を要しないように思われる。これだけならば、話はきわめて簡単なわけだが、しかし、科学技術には影の面が伴っており、これについてどのように理解し対処するかは大きな難問である。
 今回は、科学技術の影の面について、警告を発している著書を取り上げたい。著者は、理論物理学者として高名で、また科学論においても知られる武谷三男である。決して最新の話題ではないが、十分に現代的である。なお、本書が刊行された2000年は、武谷の没年(4月22日。88歳)であり、本書は、武谷のまさに最後の著作となった。

武谷三男
『ショックレポート 危ない科学技術──明日あなたの隣で起こる悲劇』
青春出版社、2000年3月10日。

はじめに──最悪の事態が現実になりつつある!

1章 未来の危険なエネルギー
    原発・ソーラー発電の隠された本音
2章 「安全よりスピード重視」の交通
    リニアモーターカーで加速する悲劇
3章 ゴミ・廃棄物に埋もれる世界
    リサイクル・処理事業が起こす悪循環
4章 都市に迫る有毒物質建築
    あなたが知らない「住」環境の恐怖
5章 食品加工が招く「未来型公害」
    がん・遺伝障害はなぜ急増しているのか?
6章 医療に殺される時代に到来
    最先端医療裏でうごめく怖い思想
7章 コンピュータと暗号社会の危機
    情報で人を操る黒幕はだれだ!
8章 未来を拓く真の最先端技術

あとがき

 原発とソーラー発電に対する批判は、2000年という時期を考えれば、十分に先駆的である。本書が刊行されて、20年あまりが経過し、本書の警告がどうなったかを検証するというのも、重要課題となるだろう。この20年で危険が解消されてということは、ほとんどないように思われる(付け加えるべき危険はいくつも存在するが)。
 地球温暖化についての言及が少ないのはどうしてだろうか。あまりこの点についての科学的切り込みはないようである。時代的な制約だろうか。
 8章=終章では、前向きな展望についても言及されている。

医学とはどのような学問か

 医学・医療は、わたしたにとって身近な存在であり、多くの人の関心事です。しかし、医学がいかなる学問なのか、あるいは医学は広い意味での科学に属しているとして、たとえば、それは理学(物理学など)に近いのか工学に近いのか、など、必ずしも明確な理解が得られているわけでもないように感じられます。こうした基本的な問題を、医学教育また医療の現場で、追求した論考が刊行されました。キリスト教を含めた宗教とも、密接な関わりの後問題が扱われています。

杉岡良彦
『医学とはどのような学問か──医学概論・医学哲学講義』
春秋社、2019年。

はじめに

第1講 医学哲学とはⅠ
      医学の哲学と科学の問題
第2講 医学哲学とはⅡ
      医学哲学と農学原論の比較を通じて医学の全体像を問う
第3講 医学の科学論Ⅰ
      分子生物学と臨床疫学/EBM
第4講 医学の科学論Ⅱ
      臨床疫学/EBMの意義とNBM
第5講 医学の人間観Ⅰ
      医学は人間をどのように考えるのか
第6講 医学の人間観Ⅱ
      フランクルの人間観と次元的人間論
第7講 医療倫理と医療制度Ⅰ
      医療倫理はなぜ必要なのか
第8講 医療倫理と医療制度Ⅱ
      医療技術の発展と人間の尊厳
第9講 医学における「価値」の問題Ⅰ
      医学は何を目指しているのか
第10講 医学における「価値」の問題Ⅱ
      健康とは苦しみを取り除くことなのか
第11講 現代医学の諸問題Ⅰ
      研究不正の問題を考える
第12講 現代医学の諸問題Ⅱ
      代替医療や統合医療は疑似科学か
第13講 医学教育における教養科目の意義を考える
      医学概論の観点から
第14講 孤独に関する医学的研究と人間の孤独性
第15講 生物心理社会
      スピリチュアルモデルと精神的人格

事項索引
人名索引

 筆者も医学概論・医学哲学は、前著『哲学としての医学概論 方法論・人間観・スピリチュアリティ』(春秋社、2014年)において、公にされているが、本書は、講義・講演に基づき、医学概論の入門書という意図で執筆されました。著者の考える医学概論の構想が多様で整理された諸問題において、明快に示されています。本書の「はじめに」の冒頭で、説明されている通りです。

「本書は、「医学とはどのような学問か」を考える医学哲学(医学概論)の講義であり入門書です。医学部をはじめ医療系大学の多くでは、一年目に医学概論や医療概論という名の講義が行われます。それらは、ほとんどの場合「医学の入門」を意味しますが、本書では医学概論の創始者である澤瀉久敬の考えに倣い、「医学の哲学」としての医学概論を取り上げます。」
プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、内容的にこの科研のテーマ(「自然神学・環境・経済」)に限定されない諸問題を扱うことが多くなったため、本ブログのタイトルと趣旨を変更したいと考えました。新しいタイトルは「自然神学・宗教哲学・自然哲学」となります。もちろん、これまで同様にさまざまな問題を取り上げます。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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