キリスト教と翻訳の問題(4)

 これまで、キリスト教と翻訳、あるいは翻訳の問題を、その政治的射程において考えてきた。しかし、翻訳、特に聖書翻訳という問題は、理論的な問いであると同時に、そもそも個々の具体的な翻訳作業における問題であり、翻訳の事例に即した研究が必要である。

 今回は、東アジアにおける聖書翻訳の重要な事例(事例研究)として次の文献を取り上げたい。

1.柳父章
 柳父章は、翻訳をめぐる独自の研究において知られているが、聖書翻訳についても、重要な研究を行っている。事例としては中国聖書翻訳を詳細に扱ったものとして、しかも日本語訳聖書にも関わりのあるものとして、次の研究が挙げられる。

『「ゴット」は神か上帝か』岩波現代文庫、2001(1986)年。

2.米井力也
 米井力也は、キリシタン文学を含む中世日本文学の研究者であるが、キリシタンにおける聖書翻訳というテーマをめぐる諸論考が、遺稿集として出版されている。

『キリシタンと翻訳 異文化接触の十字路』平凡社、2009年。

3.山浦玄嗣

 山浦玄嗣は、聖書のケセン語訳で有名であるが、聖書翻訳研究では、具体的な個々の翻訳聖書を取り上げることが必要になる。日本においては、日本聖書協会の諸翻訳が論じられることが多いが、取り上げられるべき翻訳聖書はかなりの数に及ぶ。個人訳として異色ものの一つが、ケセン語訳であり、次の文献は、聖書翻訳論としても興味深い。

『イエスの言葉 ケセン語訳』文春新書、2011年。


 翻訳の理論的研究は、こうした具体的な事例からの議論の構築という手続きを必要としている。
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