死と死者儀礼(2)

 死は人間存在・生自体の問いと不可分であるため、あらゆる文脈で問題になる。しかし、死が鮮明な問いとして浮かび上がる独特な問題状況が存在し、そこで死が問われることも否定できない。戦争はそうした問題状況の一つであり、宗教思想にとってこの戦争という事柄は決定的な意味を有していると言わねばならない。今回は、その観点から、一つの文献を取り上げることにしたい。日本思想史の分野の研究者であり、昨年逝去された、河原宏(1928-2012)の著書である。

河原宏
『日本人と「戦争」──古典と死生の間で』
講談社学術文庫、2012(1995)年。

まえがき

I 日本人の「戦争」──古典と死生の間で
 1 実感と「抽象」
 2 「僕は妣の国に往かむと欲ひて・・・」
 3 言霊の戦い──「海行かば」
 4 修羅の戦い──「七生報国」
 5 信長の戦い──「滅せぬ者のあるべきか」
 6 「国民」の戦い──「朝日に匂ふ日の本の 国は世界に只一つ」
 7 歴史の中の「戦争」──「見るべき程の事は見つ」

II 「開戦」と「敗戦」選択の社会構造──〝革命より戦争がまし〟と〝戦争より革命がまし〟
 1 〝戦争か平和か〟の選択ではなく
 2 「国体」を支える社会構造
 3 二・二六事件の後に
 4 農地調査法と企画院事件
 5 先制攻撃をうける懸念
 6 内戦への懸念
 7 革命か敗戦か野選択

III 天皇・戦争指導層および民衆の戦争責任
 1 半世紀後の戦争責任論
 2 天皇の戦争責任
 3 戦争指導者の戦争責任
 4 民衆の戦争責任

IV 日本の「戦争」と帝国主義──空腹の帝国主義と飽食の帝国主義
 1 帝国主義の昔と今
 2 金銭と暴力──シェイロックから帝国主義へ
 3 日本の「戦争」──空腹の帝国主義
 4 現代の帝国主義と超帝国主義

終章 特攻・玉砕への鎮魂歌
 1 「汝心あらば 伝へてよ玉のごと われ砕けにきと」
 2 『戦友』と『同期の桜』
 3 鎮魂の賦

初出論文リスト
初版あとがき
新版のためのあとがき
この書物をめぐって(堀切和雅)

 内容的には、多岐にわたる事柄をあつかい、多くの古典に言及しつつ展開された著作であり、16歳で太平洋戦争の末期を迎えた戦中派の著者の日本人の戦争と死を「実感」にこだわった論が展開されている(実感と抽象との対比は、本書の重要な視点である)。それは、次のように著者によって説明されている。

「当時十六歳だった私が自分自身に問いかけ、自分一人でこれに答えたものを核にしている。その問いかけとは、国家とはなにか、戦争とはなにか、天皇とはなにか、の三点に尽きていた。」(5)
「要する、自分はなんの為に死ぬのか、の一点である。」(6)

 死とは死者儀礼とは、戦争において凝縮的な形をとる。そして、過去の戦争は現代の問いでもある。「戦争責任とは、今や戦後責任なのである」(9)。以下、いくつかの文を抜き出しておこう。

「「戦争」における日本人の死生観には、欧米流の近代合理主義では割りきれない一転がある。」(26)
「生者の間だけでなく生者と死者との間とも繋ぐ共歓と共悲の実感」(24)
「戦後の日本では、あれだけ夥しい死者の記憶をつみあげながら、ちょうどラフカディオ・ハーンが日清戦争後に書いたような人と人、人と死者との間を流れるいとおしさに満ちた共感の「心」は書かれなかった。人々は新来の「抽象」に魅了され、それが与える数・金・主義・制度のいずれかに心奪われて過ごしてきた。」(27-28)
「戦後およそ半世紀、われわれは〝歴史の畢った〟後の人間として、実感なき「抽象」の時代を生きてきたのである。」(28)

「合理主義を自称する日本人は多いが、大抵はこの辺りでたじろいでしまう。合理主義とはムードにすぎず、自らの内なるニヒリズムを支える強さはもたないからである。だが徹底しない合理主義とは、実は非合理主義にすぎず、徹底した合理主義はニヒリズムである。こうして信長における合理主義とニヒリズムとは互いに支えあっている。」(57)

「これらのことを前提として、依然として民衆にも戦争責任はある。それは大別して次の三点に分けられる。一、戦争は儲かるもの、割りの好いビジネスという感覚。二、同調、さらに強い者への過剰同調。三、弱者へのいじめ感覚。これらは、かつて日本人の免れることのできない性向だった。」(171)
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