FC2ブログ

空気の社会学?

 先の参議院選挙については、おそらくさまざまな分析が可能であろう。ネット上では、日本人の政治不信とも政治過信とも、議論が飛び交っている。しかし、選挙というのは、日本人の集団的心性が顕著に現象する場としても興味深い事象であることは確かであろう。この日本人の心性を空気と水という観点から論じた名著(?)として、山本七平の日本人論を挙げることができるであろう。山本と言えば、「日本人とユダヤ人」など、キリスト教思想との関わりでも興味深い思想家であるが、その日本人論(この日本人論は彼のキリスト教思想と緊密に結び合っている)は鋭い視点を提供している。その場の空気が集団と個人の行動や言論を規制する
ということの事例はおそらくわたしたちの回りに無数に見出される(空気の支配)。気を読めない人に対する周囲の眼差しは、いつのまにかわたしたち自身の眼差しともなって、牙をむくことも少なくない(仲間内にささいな出来事から集団狂気・暴力まで)。山本の意図は、「本書によって人びとが自己を拘束している「空気」を把握し得、それによってその拘束から脱却し得たならば、この奇妙な研究の木壁への第一歩が踏み出されたわけである」(「あとがき」、229)とある通りである。

山本七平
『「空気」の研究』
文春文庫、1983年。

「空気」の研究
「水=通常性」の研究
日本的根本主義について
あとがき

解説(日下公人)

「今まで、さまざまな空気支配の形態をのべてきた。それには、物質である仁国への感情移入のよる臨在感的把握によって起る被支配という原始的物神論的なものから、たとえば「公害」のような、絶対的(とされる)命題乃至は名称への臨在感的把握による被支配すなわち「言語による空気支配」、また御真影や遺影デモ等の新しい偶像による空気支配という現代的なものまであった。」(72)
「だが、われわれの先祖が、この危険は「空気の支配」に全く無抵抗だったわけではない。少なくとも明治時代までは「水を差す」という方法を、民族の知恵として、われわれは知っていた。従って「空気の研究」のほかに、「水の研究」も必要なわけで、この方法についてもだいぶ調べたのだが、この「水」は、伝統的な日本的儒教の体系内における考え方に対しては有効なのだが、疑似西欧的な「論理」には無力であった。」(87)
「早くも明治に内村鑑三はその危機を警告しているが、われわれが残念ながらまだ新しい「水」を発見していない。」(88)
「人は、論理的説得では心的態度を変えない。特に画像、映像、言葉の画像化による対象の臨在観的把握が絶対化される日本においては、それは不可能と言ってよい」、「この無力を知るとき、人はその臨在感的〝空気〟に対抗するために通常性的〝水〟をさす。しかしここで忘れてならないことは、空気も水も、現在および過去のものであって、未来はそれに関係ないということである。従ってこの方法をとるとき、人は必然的に保守的にならざるを得ない。」(216)
「「空気」に基づく行動が、まわりまわっていつしか自分の首をしめて行き、その判断で動きまわっているとどうしもならなくなることを、人は、否応なく実感せざるを得なくなってくるからである。」(218)


 現代日本における空気支配と、先の参議院選挙の結果とは無関係ではないように思われる。この選挙という現象を分析できるだけの「空気の社会学」が必要なのではないだろうか。山本の議論は、その手がかりとなるかもしれない。なお、山本は、この書の扉に記しているように、ヨハネ3章5節の「人は水と霊とによらずば、神の国に入ることあたわず」との言葉に、空気と水というメタファーを結びつけている。
スポンサーサイト



プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、内容的にこの科研のテーマ(「自然神学・環境・経済」)に限定されない諸問題を扱うことが多くなったため、本ブログのタイトルと趣旨を変更したいと考えました。新しいタイトルは「自然神学・宗教哲学・自然哲学」となります。もちろん、これまで同様にさまざまな問題を取り上げます。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター
カレンダー
07 | 2013/08 | 09
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR