『学術の動向』 から

『学術の動向』 2017. 5 (日本学術会議)が届きました。
 今回は、通常通り、二つの特集による構成ですが、そのほかにも、興味深い論考が掲載されています。

【特集1】安全保障と学術の関係
・「安全保障と学術に関する検討委員会 審議報告」 (杉田敦)
・声明と報告要旨「文事的安全保障研究に関する声明」 平成29年3月24日 日本学術会議 安全保障と学術に関する検討委員会
・「学術がたどった歴史から学ぶ」 (兵藤友博)
・「「学術のため」という視点」 (須藤靖)
・「経営技術論的視点から見たデュアルユース」 (佐野正博)
・「軍民両用(デュアルユース)研究とは何か─科学者の使命と責任について─」 (福島雅典)
・「防衛技術とデュアルユース」 (西山淳一)

 ここ数年来、議論が行われてきた、日本学術会議での、軍事研究に関わる論争の報告とそれに関わる特集である。日本学術会議としては、従来の基本方針の堅持という結論でまとまったわけであり、それは大きな論争の成果と言える。しかし、アメリカ軍からの研究費がすでに大学に大きく入っている問題など、またこの特集のポイントに一つであるデュアルユース問題は、まだまだ今後の議論が必要なものである。次の方向性は考慮すべきと思われる。

「民生研究組織におけるこうしたデュアルユース・ジレンマ問題の深刻化を回避するためには、民生目的研究と軍事目的研究の両方を同一組織で同時に遂行するのではなく、組織分離を図ることが必要かつ有用である。」(佐野、36)
また、
「スペインの偉大な哲学者、オルテガの言葉でもって締めくくりたい。
 大学は科学によって生きねばならない。科学は大学の魂である。・・・人は、時代の高さに、なかんずく、時代の理念の高さに生きなければならない。」(福島、47)

【特集2】これからの社会のおけるケアサイエンスの構築をめざして
・「これから社会におけるケアサイエンスの構築をめざして─看護学からの提案─」
  日本学術会議健康・生命科学委員会看護学分科会・ケアサイエンス班:西村ユミ・太田喜久子・数間恵子・川口孝泰・古在豊樹・小松浩子・正木治恵
・「ケアとしての科学─科学哲学。公共政策の立場からみたケアサイエンスの必要性」 (広井良典)
・「ケアサイエンスは何か─当時事者の視点から」 (上野千鶴子)
・「社会的ロボティクス(関係性を促すロボット開発)の立場からみたケアサイエンスの必要性への見解」 (岡田美智男)

 宗教にとっても、かなり重要な議論になっている。

 ここまでが特集であるが、その他に次の記事・論考が収録。

・「速報 熊本地震・一周年報告会─熊本県・防災学術連携体と共同で開催」 (米田雅子)

【持続可能な開発目標に関する国際会議】
・「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた超学際研究とマルチステークホルダー協働の推進」 (武内和彦・蟹江憲史)

 ここでのキーワードは、開発と環境・持続可能との関係ということになるが、「開発」という論点は、さまざまな特に人文学からの議論が必要ではないか。

そして、今回もっとも重要なものと思われたのは、次の論考である。
・「ノーベル賞フィーバーの裏で─わが国の学術研究の危機の打開に認識と発想の転換を」 (岡田泰伸)
 はじめに/1..2000年以降に抑えられてきた学術・科学技術予算と低下し続ける学術研究力/2.国立大学運営費交付金削減”実験”が研究現場にもらたした「結果」/3..国の「借金」と少子化・人口減問題の解決の王道/まとめ

 「1」と「2」で指摘された現実はきわめて深刻。特に自然科学系の基礎研究は大変な事態を迎えつつある。人文学系は、そもそも明治以来、予算的な優遇を受けずに続けられてきたため、こうした動向に対する耐久力は自然科学系より高いかもしれない(京都大学のキリスト教学は、教員の定員2名ではあるが、基本的には1名で運営してきてきた。というわけで1名になったからといって、右往左往することはない)。しかし、人文系もそろそろ限界点に達しつつある。

 「3年続きの日本時ノーベル賞受賞によって、人々はわが国の学術研究力の高さが、現在も誇れる状態にあると誤解している」(99)。これは、マスコミの作為か不作為(無知)か。

 実態は、「世界有数の経済大国・科学技術大国と自称してきたわが国の研究力は、2000年~2003年をピークにそれ以降甚だしく低下していき、現状は無残ともいえる状況にある」(97)。
 根本的な政策転換が求められる。
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