『福音と世界』から

 『福音と世界』(10.2013)が、届きました。若干の内容について紹介します。

 まず、横田耕一さんによる「自民党改憲案を読む」の連載は、6回目で、「天皇あっての日本国家──天皇による国民統合」というタイトルですが、次の紹介する特集とも、内容的に関連したものになっています。
 大日本帝国憲法と日本国憲法の比較の後に、「日本国憲法が天皇にいっさいの政治的機能を認め」ないのにもかかわらず、「「天皇教の刷り込み」は、状況が変わっても一朝一夕に国民意識から払拭されない」、「天皇に関する旧慣行の多くが維持された」ことを確認した上で、「そうした状況をうけて『改憲草案』は、グローバル化や、対外的軋轢、それらに伴う国内的対立に対応するためには強固な国民統合が必要であるとの観点から、天皇を国民的総合軸として確立しようとしている」ことが論じされている。
 これ動向は急に浮上した問題というよりも、横田さんが論じるように、「天皇に関する改正点の多くは、すでに現憲法の下で行われていることの明文化ないし憲法昇格化に過ぎない」という点がポイントなのである。自衛隊や防衛をめぐる問題も同様と言わねばならない。その上で、明文化が大きな画期をなすことに注目すべきなのである。
 問題点は次の二点になる。
・「旧天皇観を身体化している主権者国民」という実態を見据えた上で、この間の改憲動向に対応すること。この実態はさしあたりネガティブな仕方で機能すると思われるが、問題設定によっては、「改憲」動向を抑制する機能へと転換することも可能かもしれない。
・国民統合という問題は、さしあたり国民国家という枠組み内で問われているわけであるが、国民国家という枠組み自体を問いに付すという議論の組み立ても可能である。これは現代思想において実際に追及されている論点であり、キリスト教思想とも無関係ではない。

 次に、特集「アメリカと天皇制」を紹介します。特集には、次の論考が含まれている。
・河西秀哉「国民国家と天皇制──「元首」と「象徴」」
・藤井創「「アメリカ的キリスト教」とGODと呼ばれる神」
・菅孝行「『神国日本』──幻想の共同性の虚構と継承」
・磯前順一「国民国家という幻想を越えるために──西川長夫の「主体の死」をめぐる思考より」
・石川裕一郎「憲法の忘却/忘却の憲法──「沖縄」「福島」から「アメリカ」「天皇」へ」

 今回の特集は、現実の動向との関係で、また理論的な問いとして、興味深い論点を扱っている。おそらく、問題点は次のようになる。
・天皇制や国民国家について、フィクション・虚構という分析は一定の意義を有するものの、問題の核心にこれで届くのかについては疑問が残る。現実と虚構の二分法で人間的なリアリティが適切に理解できるのだろうか。チアリティを理解可能にする分析装置=理論の構築が必要であり、それには本格的な思索が必要である。私見では、こうした理論構築は途半ばであって、理論がリアリティに追いついていないのが、思想的混迷の原因と言うべきであろう。
・天皇制についてもそうであるが、「アメリカ」の動向をこの100年の程度のスパンを含めて、どのように分析するのかが問題であり、今回の諸論考はそれに成功しているのだろうか(読者はどう判断するだろうか)。ネオコンと呼ばれる勢力は一見する矛盾する二つの影響を及ぼしていることからもわかるように、「アメリカ」についての分析は簡単ではない。多くのマスコミ経由の報道が参考にならないことは当然として、いわゆるアメリカ研究と呼ばれるものも、アメリカにおける研究のある側面・論点を切り取って紹介しているのにすぎない場合は、果たしてどの程度当てにあるのだろうか。
 ともかくも、今回の特集は考える材料を提供してくれたように思う。菅孝行さんの名前も学生時代のことを思い出し、懐かしく感じられた。

 そのほかに、リチャード・ボウカムのインタビューの後半「個人と共同体、神の国と日本の教会」や金鎮虎「市民K、教会を出る 9」(韓国プロテスタントの成功と失敗、その欲望の社会学)の連載など、興味深い論考が見られるが、太田愛人さんの「大正・昭和キリスト教史の周辺」の4回目で、「詩人が宣教師をうたった」として、賀川豊彦が取り上げられていることを指摘しておきたい。特に、宮澤賢治との関連で、「タッピング夫人の口から賀川の構想と賢治の理想が一致していたことが証明された」(61)と述べられているが、宮澤賢治という人物の思想をどのように理解するのか、キリスト教思想との関連でどのように評すべきなのか、については、キリスト教との関連はさまざまに指摘できるにしても、一見して感じられる以上にかなり複雑な問題になるのではないであろうか。宮澤賢治の思想というものをどう論じるかは、さらなる課題である。
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