学問研究の国際化は英語化か?

 わたくしが専門にしているキリスト教学は、基本的な文献の圧倒的多数が外国語によるものであり、専門研究に携わるには、複数の外国語を一定程度以上に修得することが求められる。その意味で、キリスト教学は語学を基礎にしている言って過言ではない。また、近年、外国語の中での英語の比重が高くなってきていることも事実であり、英語の文献を読む機会は多くなってきているというのが実感である。

 英語の比重の高まりは、国際言語としての英語の位置にも関わる問題であるが(つまり政治的経済的な問題でもある)、キリスト教研究に関しては、その背後にキリスト教基本文献の英訳事業の継続的な取り組みとそれに基づく研究レベルのアップが存在していることにまず留意すべきであると思われる。英語で学問が出来る、キリスト教が学べる、この状況を作り出す努力が、今日のキリスト教学術用語としての英語の地位を可能にしているのである。これは、それぞれの地域や言語文化圏で、キリスト教研究を進展させるために重要な示唆を与えてくれる。日本でキリスト教研究を発展させるには、日本語でキリスト教が学べるという状況をまず確立することが必要である。日本におけるキリスト教土着化とはこの連関において可能になるのであり、日本語への翻訳と日本語による思索を省略したところに、日本におけるキリスト教研究のレベルアップはあり得ないと思われる。その上での、それと並行しての外国語の修得がさらに求められる。日本語の文献の批判的で掘り下げた読解ができない日本語を母国語とする者が、英語の文献を深く読むことなど、果たして考えられるであろうか。キリスト教研究において国際化は当然であり、英語の重要性は増しつつある、しかし、この国際化が英語化であり、現在の財界や政界が空想しているような内容の英語力によって可能になるというのは、まったくの錯誤・錯覚と言わねばならない。

 大学研究室に届けられる新聞に、「長周新聞」という新聞がある。ご存じの方はあまり多くないとも思うが、大手マスコミからは得られない内容の記事が掲載される。先ほど、届いた第7510号(2013.11.25)に第四面には、次の記事が掲載されている。

「独立国家の学問は母国語で 先人の努力で世界水準に 逆行する大学講義の英語化」「夏目漱石の「語学養成法」にみる」

 今回のこのブログは、この記事を読みつつ書いたものであり、現在京都大学で進行中の英語教育路線の問題性について考えさせられた。京都大学での英語教育は別に論じる問題があるとしても、日本の高等教育全般における教育の英語化については、この記事は重要な指摘を行っているように感じられた(漱石の教育論という視点も面白い)。母国語の力が批判的思考の基盤であることを考えるならば、現実社会に対して批判的な人を減らすには、母国語の力を低下させることが一つの戦略として考えられる。財界や政界の視点から国際化が企業の国際的展開による収益の強化を目指している場合、日本国内の産業を保護するには、日本人を安い賃金と劣悪な労働条件でも不満を言わずに働くように「改革」することが不可欠であるとの論法になる。このような日本人とは、基本的人権などを放棄した批判力のない日本人ということであり、それには、母国語による批判的思考などが身につく前にいわゆるコミュニケーション中心の英語を詰め込むという戦略はきわめて有効であるように思われてくる。こうした見方はあまりにも突飛すぎるであろうか、裏を読みすぎているであろうか。しかし、教育が公共的な役割を担う公的な事柄であるとは、教育にはまさにそれだけの効果・影響力があるということにほかならない(はずである)。

 キリスト教研究には英語は重要である、しかし、そのほかの外国語はさらに必要な場合も少なくない、そしてそれらの前に、まずは母国語のレベルアップが肝心のように思われる。批判的な思考力なしに、思想研究など可能であろうか。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
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