聖書学と言語、レトリック論3

 今回は、旧約聖書学研究から、並木浩一先生を取りあげます。旧約聖書学は、聖書全体を方法論的にリードしてきたと言える分野であり、先駆的な研究を生み出してきた。レトリック論をはじめとした現代の言語論の成果を早くから取り入れてきたのが、旧約聖書学であり、この点で、日本の旧約聖書研究をリードしてきた研究者の一人が並木先生である。それは、一貫したものであるように思われる。
 わたくしの手元にある文献から、いくつかのものを紹介したい。

1.『旧約聖書における社会と人間──古代イスラエルと東地中海世界』教文館、1982年。
 この論集には、「視覚表現における古代的特色──ホメロス・ウガリト文学・旧約聖書」(1982年)が、収められているが、これは、ボーマン以来の、ギリシアとヘブライの視覚と聴覚における対比という単純な図式を乗り越えるものとして、わたくしとっては、記憶に残る論考である。レトリック・言語の問題は、認識・経験という問い、そして視覚と聴覚と緊密な関わりを有している。
 「想像力は精神化された視覚にほかならない。イスラエル宗教文化における創造力はこの意味での想像力に存した」(190)、「彼らが生きる世界をそれ自体意味をもつ統一体として見なしたこと」(191)、「見ることの相互性が新たな神聖なる、不透明な部分を残すべきでない人間関係を創造するのである」(192)、「視覚動詞の意味領域に考慮を払いつつ、原因と結果とを総合的に把握したイスラエル人のメンタリティーに注意を払うこと」(193)。
「聖書翻訳者の想像力」(242)
「神と人間との間の見ることの相互性はギリシアとイスラエルの両民族に共通しており、また神が原則的に不可視であることの認識も同じである」(251)。
「ギリシア人は知ることによって知られ、イスラエル人は知られることによって知ったということになる」(253-254)、「「見ること」の相互性の根底における感覚の相違が、古代世界における極めて対照的な二個の創造性に深く関与し、それぞれの個性を刻印することになったのである」(254)。

2.『旧約聖書における文化と人間』教文館、1999年。
 本論集は、全国紙の新聞書評欄で取りあげられるなど、専門論集であると同時に、広く注目されたものであったと記憶している。実際、この論集には、「旧約聖書とは何か」「旧約聖書における教育」「旧約聖書の自然観」「イスラエルと諸国民とヤハウェ」が所収され、わたくしは、いずれも、自分の研究や講義で言及し参照してきた。
 しかし、言語論という観点から、特に重要なのは、「文学としてのヨブ記」(1998年)である。この論文の目次は次の通りである。

一 聖書とヨブ記の文学性
二 ヨブ記はドラマであるか
三 ヨブ記は文学的完成度が高いか
 1 平行線をたどるヨブと友人たちの論法
 2 ヨブ記におけるメタファーとメトニミー
 3 メタファーとしてのヨブの言語世界
 4 メトニミーとしての友人たちの言語世界
四 ヨブ記のドラマは悲劇か喜劇か
五 ヨブ記における思想行為としての決意表明
六 帰結──再びヨブ記の文学性について
<付論>二四章─二八章の読み方

 この目次からも、聖書解釈における言語論・レトリック論の意義は、想像いただけるであろうか。

 この文学としてのヨブ記は、その後、『「ヨブ記」論集成』(教文館、2003年)、そして、『ヨブ記の全体像』(並木浩一著作集1、日本キリスト教団出版局、2013年)へと発展することになる。これらの論集でも、文学、レトリック、言語が中心的な問いであることは、著作集1に「対話のドラマトゥルギー ヨブと神」(2005年)、「ヨブ記のレトリック」(書き下ろし)が収められていることから明らかである。

 並木先生とは、先生が日本基督教学会の学会誌の編集委員長をされていたときに、一編集委員としてお世話になったことが最大の接点と言えるものであるが、学問上の決して小さくない。
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