宗教倫理学会・公開講演会より

 宗教倫理学会では、2014年度も、月一回の研究会を、3月~7月にかけて、予定しており、昨日は、4月の、第2回目の研究会であった。同時に、この第2回目の研究会は公開講演会として企画され、天理大学の澤井義次先生の講演が行われた。聴衆が公開講演会としては少ないのが残念であったが、宗教学の諸理論を適切に用いた説明と分析に基づく講演であり、明解で示唆的な発表であった。また、澤井先生の天理教の立場も織り込まれていた点でも興味深いものであった。

 講演の題目は、「「宗教共同体」と倫理の関わり──現代日本の宗教の意味論的考察──」で、講演要旨は予め次のように示されていた。

「現代日本の宗教のあり方について語るとき、日本の宗教伝統を「生活慣習としての宗教」と「信仰としての宗教」の二重性を基軸として捉えることが有効であると思われる。「生活慣習としての宗教」は、たとえその宗教性を意識しなくとも、いわば伝統的な行事として継承されてきた。それは広義の「宗教共同体」、すなわち日本の宗教文化を形成してきた。また同時に、個人が主体的に選び取る「信仰としての宗教」も、狭義の「宗教共同体」すなわち教団宗教として存在してきた。これら二重の「宗教共同体」を基軸として現代日本の宗教を捉えるとき、宗教あるいは宗教的なものがどのように倫理と連関してきたのか、また連関しているかをより良く理解するための視座を得ることができるであろう。 この研究発表は、「宗教共同体」と倫理の有機的連関を考察することによって、現代日本社会における宗教のあり方を読み解こうとする一つの意味論的な試みである。」

 講演を聴きながら、さまざまなことを考えた。以下、自分の記憶のために簡単にメモしていきたい。

・意味世界の二重性と倫理の二重性とは同一か。深層/表層という関係と、境域的な関係という二つの理論化の方式の相互関係が、理論的に展開される必要がある。これは、ティリッヒの意味論を整理する際に生じる問題と同一のものである。領域、層、次元という三つのメタファーの認知的な方式の相違の問題。

・オットーとエリアーデという対比で言えば、澤井先生の意味論はエリアーデ的と言える。その場合、いくつかの問題が生じる。たとえば、エリアーデ的な意味世界で重要になる世界軸(axis mundi)は日本的な意味世界ではどのようになっているのか。この軸の設定の仕方によって、「日本」の輪郭の描き方が異なってくる。あるいは、これは、「日本」とは何かという問題を掘り下げることを要求する(日本は軸によって異なるとすれば、これは明らかに自明な概念ではない。首都東京から見た日本と、福島あるいは沖縄から見た日本とで、倫理的なあり方が異なることはないのか。どこから日本を見るのか。これは、時間軸で表現すれば、どの時点を起点にするのかということでもある)。澤井先生が最後に東アジアという広がり、特に儒教の意義を強調したことは、この論点にも関わる。

・エリアーデよりもオットーに即して意味世界を論じるとどうなるか。宗教倫理という問いの立て方が自明ではなくなるだろう。宗教と倫理は意味世界で重なりあうだけではなく、むしろ、相違(対立・断絶)が際立つ。澤井先生の立場は、宗教と倫理の相互連関を対立という仕方ではない仕方で構築することになるように思われるが、意味世界の根拠という意味論的分析から帰結するのは、意味根拠が根底と深淵(Grund/Abgrund)の二重性を有することであり、宗教は倫理の正当化としても、批判的展開としても機能しうることにポイントがあるように思われる。これはイデオロギーとユートピアの二重性であり、宗教倫理の場合は、この二重性のどこで議論するかを明示する必要がある。これによっては、市民社会と宗教との関係理解も異なっている。いずれにせよ、事例研究の積み上げが必要である。宗教倫理の成立はこれ自体が問いであるというのが、わたくしの感想である。

・「日本」の時間軸の起点(あるいは中心)をどこに置くのかという問題であるが、これは、意味世界の歴史的変化・変動をどのように評価するのかという問いになる。伝統的な意味世界の変容・解体としての近代化は悪なのか。意味世界の変容に直面して、新しい倫理(言葉)を生み出すのか、あるいは旧い倫理を再生するのか。これは、19世紀に、新しい神話の誕生か、旧い神話の回帰・再生か、という仕方で問われた問題であり、いまだ決着がついていない。
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