キリスト教と神話3

 キリスト教と神話というテーマで、聖書学的に必ず取り上げられる有名な例は、古代メソポタミア神話と旧約聖書の創造物語との関連です。
 まずは、まさに冒頭の、創世記第一章からのいわゆる第一創造物語。

「1 初めに、神は天地を創造された。2 地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。3 神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。4 神は光を見て、良しとされた。・・・」

 これと、古代メソポタミア神話(起源神話) 『エヌマ・エリシュ』との、神:渾沌・深淵=マルドゥク:ティアマットという関連づけです。
月本先生によれば、「最もよく知られたバビロニアの創造神話。七つの粘土書板、全体一〇五三行からなり、成立は前一四世紀頃と言われる。創造を果たすのはバビロンの都市神であり、バビロニアの国家神であったマルドゥクである」(月本、17)。
 このドラゴン(水・混沌)を退治する英雄神(太陽・秩序)という物語の背後に、都市文明の正当化という論理を見出すことができるかもしれません。女神ティアマト(塩水、 cf. 男神アプスー・淡水)は、都市文明よりも古い文明形態に遡る古の神的存在ということです。日本で同様の議論をすれば、弥生の稲作の神に対する縄文の忘れられた神といった感じでしょうか。

 創造物語には、その細部を掘り下げれば他にもさまざまな古層を発見することができるでしょう。
『エヌマ・エリシュ』と並んで有名なのが、『ギルガメシュ叙事詩』です。
 ギルガメッシュは、シュメール初期王朝第3期(前2600年頃)の都市国家ウルクの王として実在(?)したともいわれますが、『叙事詩』自体は前1800年頃に「古バビロニア版」で成立し、大幅改訂により「標準版」が前2000年期末に成立。最も新しい写本は、ヘレニズム期に作成(前三世紀)。旧約聖書の対応では、ノアの洪水物語が挙げられますが、これに対応した『叙事詩』の部分(「ウトナピシュティム」(不死の人)の語る物語)は、後に『叙事詩』に編入されたと考えられようです。
 おそらくこの『叙事詩』で注目すべきは、その主題です。一つは、「死すべき人間」(人間の生に対する悲観主義)であり、死の不可避性と永遠の生命への希求という人間存在の在り方が、人間はいかに生きるべきか、という問いを投げかけていると思われます。そして、二つ目は、「友情」(英雄ギルガメシュとエンキドゥとの間)というテーマです。
 前者の主題について、月本先生は、次のように述べています。

「神々と異なり、人間は永遠に生きることはできない。その生涯には限りがある。であればこそ、死を怖れず、勇猛果敢に闘うのが人生というものである。斃れるようなことがあっても、それによって後世に名を残すことができれば、充分ではないか。」(月本、216)
 この死生観が、親友エンキドゥの死に直面して変化を生じます。
 「死を怖れなかったはずのギルガメシュが、友の死を目の当たりにして、死の恐怖にとりつかれてしまう」、「死の恐怖はギルガメシュに、死に脅かされる生の意味を問わせずにはおかなかった。」(217)

 神話という語りは、幼稚なおとぎ話ではなく、謎としての人生に読者を直面させるという点に魅力があると言えるかもしれません。それは、この問いに回答を与えるのではなく、むしろさらなる思索を生み出すといった仕方においてです(リクール的に言えば)。

 以上のように考えてくると、聖書テキストの背後に、その古層に多様な神話の層を見出すということは、聖書のオリジナリティ=価値を損なうのではなく、むしろ聖書の意味世界の豊かさを確認させるものであることがわかります。また、問いも古ければ良いというものではなく、受け継いだ問いをどのように表現し新にどのように回答を試みたのかに、それぞれのテキストの価値=魅力があるはずです。キリスト教と神話とは、必ずしも対立的に捉える必要なないはずです。

 参考文献としては、次のあたりから読み進めて下さい。
1.ジャン・ボテロ『最古の宗教──古代メソポタミア』法政大学出版局。
2.月本昭男『古代メソポタミアの神話と儀礼』岩波書店。
3.月本昭男訳『ギルガメシュ叙事詩』岩波書店。
4.M・ノート『イスラエル史』日本基督教団出版局。
5.大林浩『死と永遠の生命──そのキリスト教的理解と歴史的背景』ヨルダン社。






 
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