リクールのカント論(2)

ポール・リクール『愛と正義』(新教出版社、2014年)に収録の「宗教の哲学的解釈学──カント」(1992年)の続きです。
 「宗教の哲学的解釈学」「希望の哲学的解釈学」というカントの宗教哲学の理解が示された上で、議論は、まず「根源悪」へ。

根源悪
「悪の問題系」の中で、「第一編」は「悪の原則的な理解可能性の問題だけに関わる。」
「三つの契機に分節」「悪の場所」「悪の根源性」「悪の起源」(12)
 この三つの契機・三段階について議論が辿られる。

1.「悪の場所」:悪を「意志の格率のうちに、位置づけること」
 「悪とは、公道の平面での優先順位の逆転、倒置、転覆以外の何ものでもありえない。」カントは「次の二つの考え方を一挙に退ける。」
 「悪は欲望と快楽そのものと同一」 → 「情動そのものは無垢である」
 「悪は理性の腐敗に存する」 →  「理性は」「欲望と同じく無垢である」
  ↓
 「悪は関係の倒錯に、すなわち法則と欲望の優先順位の倒錯に存する」(13)
     「悪の格率は法則への尊敬の反対」、たとえば「偽善のケース」

2.「悪の根拠」:「意識的になされた悪い行為から、根底にある悪い格率がア・プリオリに」(14)、「悪い格率の根拠で主体のうちに普遍的にあるもの」が推測されなくてはならない。「ある現象の可能性の条件として前提されるべきものを、後ろ向きに措定」
 「経験にもとづく概念ではない。性癖は自由意志の構造として、ア・プリオリに把握されねばならない」、「一切の経験に先立って」、「無時間的、非経験的なものと解しよう。」(15)
「この悪のはかり知れない先在性が、カントをして、無時間性という表現以外のものを見いだせなくしたのである。つまりカントは「超越論的感性論」以後は、継起する時間次元以外のいかなる時間次元ももっていないのである」、「ずっと以前からそこにあるが、にもかかわらずわれわれに責任がある何かが存在する、という逆説」(16)
 「この第一度の逆説は、次の第二度の逆説によって倍加する」、「悪への性癖(Hang)と善への素質(Anlage)の共存という逆説」(16)
 「他のあらゆる動機による限定に関して、われわれの自由意志が独立していることに、さらにあらゆる行為についての帰責性がつけ加わる」
 悪の原理と善の原理が人間本性に「内属する」ものとして並列。
   ↓
「希望への道に第一歩を踏み出す可能性」:
 「悪がいかに根源的であろうとも、それは本源性の位置を占めない。その位置こそ、法則に対する尊敬の究極の条件である善への素質の占める位置である。」(17)
 「悪がいかに根源的であろうとも、悪はわれわれが良心の呼び声に心を閉ざし続けるようにはなりえない。この意味で、悪はずっと以前からそこにあるとはいえ、悪は偶然的である。この逆説は、「悪の準本性」の逆説と呼ぶことができよう。」(18)

3.「悪の起源」:「自由を使用する根拠」
 「人間の行為はやはり自由であり、こうした原因のそれにも規定されないのであって、行為はつねにその自由意志の本源的使用だと判定できるし、そう判定されねばならない。」「カントは自分の解釈を、聖書が悪の起源を描くために用いるような種類の表現と、根本的に合致しているとみなしている」(19)、「これは「アダムにおいて」の徹底的にペラギウス的な解釈である。いかしそれは、諸解釈の争いにおいて、アウグスティヌスの解釈と同等の権利をもつ。」
 「それでもやはり難問は残っており、しかもそれはきわめて重要である。一度きりでも、何度でもあるような出来事を、いかに時間的にでなく、「理性的に」考えるか」(20)
 「カントの知的誠実さ」「理解しうる根拠は現存しない」(20)
   ↓
「悪の解釈学と希望の解釈学との間に通路を見だしたのは、注目に値する」、「誘惑のテーマ」「根源悪の頂点が希望の最初の飛翔と合致する点」、「にもかかわらず」「希望が残されている」、「義認された希望の最初の構成要素」
 「ヤスパースが「カントの根源悪」論で、みごとに洞察したこと」(21)
 「カントはわれわれに、起源自体がわれわれの内部で語るにちがいない点に、思考によって到達させるようにする。その点に思考で接触できても、それを既知のものには還元できないのであり、しかもそこからのみ道徳革命が出現できるのである。」
 「悪の推量不可能性を認めることが解明の道を閉ざすのは、ひとえに再生の道を開いておくためである。」(22) 

 カントのテキスト、哲学的古典を読む際の態度。これがリクールの卓越した点である。錯綜した議論を整理しまとめあげるのは当然としても、カントをよりよく理解する読みを示す作業(カントの限界も含めて)を辿ることができるのはすばらしい。


 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR