『学術の動向』から

『学術の動向』2015.6(日本学術会議)が届きました。いつものように、特集の紹介をします。今回の特集は、「発電以外の原子力利用の課題と展望」と「高齢化社会の食と医療──心身の健康ために」の二つです。本日は、特集1について。

【特集1】発電以外の原子力利用の課題と展望
「原子力学の役割と将来展望──第22期日本学術会議における展望」(家泰弘/東京大学)
「農学・生命科学における放射線利用」(中西友子/東京大学)
「加速器の医学利用──診断・治療の高度化に向けて」(米倉義晴/放射線医学総合研究所)
「難治性癌に対するホウ素中性子捕捉治療(BNCT)の挑戦」(鈴木実/京都大学)
「研究用原子炉等を用いた工業生産」(河村弘/日本原子力開発機構)
「大阪大学における原子力人材育成」(山中伸介/大阪大学)
「近畿大学における原子力人材育成」(伊藤哲夫/近畿大学)
総合討論「発電以外の原子力利用の課題と展望」(中嶋英雄/若狭湾エネルギー研究センター)

 1950年代の議論を経て、戦後の原子力政策は、兵器としての核兵器と平和利用としての原発という区別において進められ今日に至っている。しかし、現在、福島原発事故を踏まえて、この区別自体が問題化し、核の平和利用という議論に対する疑惑が生じ、再度議論は混沌とした中にある。国民世論の反対の中、日本の原子力政策は、1950年代の結果の線に回帰する仕方で推進されようとしている。学生運動にもかかわらず、大学制度に大きな変更がなかったのと同様に、原発事故があったにもかからず、何もなかったかのような状況である。
 こうした中で、原子力の積極的利用を発電以外の仕方で模索するというのは、当然の議論の展開かもしれない。このタイプの議論(特に原子力の医療における利用)に対して、キリスト教思想はどのような論を展開できるのだろうか。発電反対論者は、この場合はどうするのだろうか(これはわたくし自身の問いである)。

 第22期日本学術会議の副会長で、今回の特集企画に関わった「原子力学の将来検討分科会」委員長である家泰弘は、特集の第一論考を次のように結んでいる。

「原子力利用は現代の科学・技術の重要な一角をなすものであり、将来にわたって安全性を確保しつつ有効二利用して行くことが求められる。その中でも、放射線・RI・量子ビーム利用は、医療・健康、農業・食品、工業生産、特殊検査、基礎科学など広範な分野に亘っており、しかも代替手法のない唯一無二のツールであるものがほとんどである。発電利用にしても発電以外の利用にしても、今後の原子力利用を社会的合意に基づいて進めるには、放射線や放射能に関する科学的知識の普及をベースとして、きめ細かな議論を行い、合理的なリスク/メリット評価に基づく社会選択につなげたいものである。「原子力是か非か」といった極端に単純化された二項選択を迫ることも、経済原理を優先してリスクに目を瞑る姿勢も健全とは言えない。我が国における原子力利用の将来の位置づけを明確にした上で、それを担う人材を計画的・継続的に育成することが重要である。」(13-14)

 議論は正論であろう。しかし、現実の政治選択は、「社会的合意」も、「きめ細かな議論」も省略した形で、強引に進められようとしている。専門科学者の意見も無視されているのが実態であるとすれば、この正論はいかなる実効性を持ちうるのか。「リクスに目を瞑る姿勢」を結果的に利するものに使われないか。
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