日本の組織神学を振り返る5

 本ブログにおけるこの連載「日本の組織神学を振り返る」は、わたくしが依頼された仕事との関係で企画されたものである。この仕事の方は無事に完了したので、あまり連載を伸ばす必要もなくなったのであるが、集めた材料やこの間考えたことなどについて、連載をもう少し続けることにしたい。

 日本における組織神学には、戦後70年に限っても、多くの優れた研究成果が公にされ、また特にこれまでなされた海外の組織神学の翻訳紹介の意義は小さくない。しかし、わたくしはこうした組織神学の外見が組織神学の真の充実と言えるかについては、少なからぬ疑問をもっている。これは、主に学会の活動を通して、特に最近の20年程度の間について感じることである。
 一つは、日本組織神学会の停滞あるいは消滅であり、もう一つは日本基督教学会や日本宗教学会の学術大会における「組織神学」関連の研究発表の減少である。1980年代あたりまでは、ベテランの域に達した研究者(そして大家と言える研究者も)は充実した研究成果を次々刊行し、また若手研究者も活発に研究を展開していた。しかし、90年代から21世紀初頭になると、状況の変化が感じられるようになる。この変化は一過的なものか、あるいはより根本的なものか、この点についてはさらに見極めることが必要ではあるが、学会レベルでの変化は、日本の組織神学全体の状況とも無関係ではないように思われる。
 視野を広げれば、この変化は、世界的な規模の変動でもあることが見えてくる。バルト、ティリッヒ以降の組織神学が、多様な動向に分散的に広がってゆき、組織神学の全体の動向が把握しにくくなったっことはこれまで繰り返し指摘されてきたところであるが、それでもまだ、バルトやティリッヒの次の世代には、かなり広範な組織神学の諸潮流に影響を与え、新しい議論の展開を促した組織神学が存在していた。モルトマン、パネンベルク、ギルキー、カウフマン、カブであり、組織神学からやや離れれば、ヒックやリューサーなど、組織神学は全体として多様性における充実と言える状況にあった。しかし、この世代の神学者は、まだまだ健在の方々もおられるが、全体としては、仕事を終えられたとの感じが強い。問題は現在の組織神学をリードすべきさらに次の世代である。注目すべき組織神学者としてだれが挙げられるだろうか。このように見てくると、組織神学の現状に見られる問題性は、世界的な規模で展開しつつある神学的知の変動現象の一端ではないかと思えてくる。日本の組織神学の停滞は、根本的な対応を必要とする問題なのである。

 以上の状況の中で、おそらく今後の日本の組織神学をリードすることが期待されていた神学者が、5月に逝去された。わたくしも、さまざまな場面で一緒に仕事をし、学問的にお世話になった方、栗林輝夫さんである。今回は、栗林さんの主著『荊冠の神学』を紹介したい。これは、日本における組織神学において、「日本の」組織神学と述べるに値するオリジナルな業績である。

栗林輝夫
『荊冠の神学──被差別部落解放とキリスト教』
新教出版社、1991年。

はしがき

序章 予備的考察──本論に入る前に
  一 差別問題への接近
  二 聖/俗、浄/不浄
  三 聖なる民の復権
  四 部落解放の神学と教会
  結語

第一部 荊冠の神学に向けて
第一章 荊冠の神学の主題
  一 「解放」の主題をめぐって
  二 被差別部落と「出エジプト」物語
  三 荊の冠
  結語 「荊冠の神学」へ

第二章 荊冠の神学の性格
  一 象徴的な知
  二 批判的な知
  三 プラクシスの知
  結語

第三章 荊冠の神学の資料と規範
  一 被差別部落の歴史的経験
  二 聖書
  三 伝統
  四 解釈の規範
  結語
  補論 中・近世の被差別部落とキリスト教

第二部 イエス・キリスト、神、教会
第四章 荊冠者イエス・キリスト
  一 解釈学上の問題
  二 イエス時代のアウトカースト
  三 罪人とイエスの解放
  四 「荊冠者」イエス・キリスト
  結語

第五章 荊に下る神
  一 被差別者の神
  二 荊に顕われる神
  三 神の共苦
  四 神の「不受苦」と差別
  結語

第六章 荊座の教会
  一 荊座の民のコミュニティ
  二 荊座の教会のプラクシス
  三 賀川問題と教会
  結語

第七章 荊冠の神学と解放の神学──「解放」の主題をめぐって
  一 解放神学における「解放」とは何か
  二 解放神学から学ぶ
  三 解放神学を越えて
  結語

あとがき
人名索引

 もちろん、この栗林さんの著作は500頁を越える大きさではあるが、いわばその後に展開するはずであった栗林神学の発端であり、神学としては多くの未完成な部分、改善の余地を含んでいる。また異なる立場からの批判も少なくはないであろう。しかし、ここに日本の組織神学の重要な一つの出発点を見出すことは可能であり、続く世代の神学者も仕事はこの栗林さんの問題提起があたかもなかったかのように進められることは、神学知の共同作業に関わる者として許されないであろう。
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