ハイデッガーとキリスト教2

 「ハイデッガーとキリスト教」という問題を論じるには、問題状況を整理して問われるべき論点を明確化する必要がある。まず、必要なのは、これまでこのテーマに関連してどのような議論がなされてきたかの概要をまとめることである(いわゆる研究史)。その際に、留意すべきは、研究史の時代区分と地域的言語的区分であり、そして何よりも、このテーマを論じる上で素材となる事例とこのテーマについての専門研究との区別あるいは関連づけである。

・時代区分としては、ハイデッガーと同世代のキリスト教思想家(バルト、ブルトマン、ティリッヒ、またボンヘッファーもそれに加えることができるかもしれない。1920年代~1960年代)、ハイデッガーの次の世代のキリスト教思想家(エーベリンクやフックス、またユンゲルなどのポスト・ブルトマン学派、すでに本ブログで取り上げたマッコーリーあるいはギルキー、トレーシー、そしてラーナー、ブーリ、パネンベルクやモルトマン。1960年代~1980年代)、そしてさらに次の時代(1990年代以降)、とったところであろうか。この最初の世代は、このテーマの素材となりうる思想家であり、最近の時代に続ずる人々は、むしろこのテーマについて専門研究を行っている人々ということになる。中間の世代は、その点、位置づけが難しい。

・地域的言語的には、ドイツ語圏と英語圏が中心になることは言うまでもない。哲学者に注目すれば、フランスやイタリアも重要であり、また日本における議論の状況(野呂芳男、小田垣雅也、森田雄三郎ら)も独立して扱うことが必要であろう。

・研究対象と研究との錯綜した関係について。「ハイデッガーとキリスト教」を論じる上での研究対象として、まず挙げられるのは、ハイデッガーと同世代のキリスト教思想家のハイデッガー論である。しかし、ここですでに一つの文献についての二面的なあつかいが必要になる。たとえば、ティリッヒの『社会主義的決断』(1933年)は、「ハイデッガーとキリスト教」を論じる素材にもなるし、あるいはこのテーマについての一つの研究とも位置づけうる。こうして、研究史をまとめるのは、思いの外、難しい作業になる。また、取り上げる文献を、単行本に限定するのか、雑誌論文をも加えるのか、さらには、博士学位論文はどの程度視野に入れるのか、そして、辞書の項目などの中における「ハイデッガーとキリスト教」への言及や、学術書以外における論評・エッセイは無視するのか、こうした点も問題になる。
 実際、本や論文のタイトルだけからは、想定できない仕方で、「ハイデッガーとキリスト教」についての重要な議論が含まれる場合があり、研究史をまとめ、分析する作業は切りが無いものとなる。次のものは、きわめて重要であるにもかかわらず、表面的な調査では見落とされる可能性があるものである。

・辻村公一「ブルトマンとハイデッガー─信仰と思惟─」
 一 序言。問題の説明
 二 出會の時
 三 出會の前 (A)ブルトマンとヒストーリェの問題  (B)ハイデッガーとメタフュージックの問題
 四 ブルトマンとハイデッガーとの相違と相應 (A)世とひと (B)神の啓示と無の開示 (C)終末論的今と瞬間
 五 結語。信仰と思惟

  これは、『ハイデッガー論攷』(創文社、1971年)に、附録一として収録されたものであり、きわめて重要な論考であるが、表面的な検索では見出しにくいかもしれない。

・そして、「ハイデッガーとキリスト教」とをテーマ化する上で問題となるのは、両者が表面的な断絶にもかかわらず根本的なレベルで緊密に結び付いているという研究者の予想である。キリスト教研究者が「ハイデッガーとキリスト教」を論じる際に、しばしば前提とされているのは、この予想であり、それを展開するために設定される設問が、神(々)、存在、言葉、存在史、人間理解、そして否定神学、神秘主義などなのである。しばしばこうした問いの立て方は循環論法に陥ることになる。
 しかし、いずれにせよ、ハイデッガーと同世代以降のキリスト教神学との間に、単純な影響関係などを想定するだけでは、奥行きのないつまらない議論になる恐れが多分にあるものと思われる。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
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