ハイデッガーとキリスト教5

 前回は、日本語において比較的最近刊行された文献において、「ハイデッガーとキリスト教」というテーマを見た。しかし、少し時間を遡れば、日本においても特徴的で重要な研究がなされていたことがわかる。人文科学においても、近年研究倫理が問われるようになり、論文の剽窃や捏造は他人事ではなくなっている。特にオリジナリティが問われる博士論文では、重要な先行研究の見落としは、一方でその研究の質に疑いを生じるだけでなく、他方では当然言及し自らの研究との関わりを述べるべきものを意図的に外したという研究の公正性について疑惑を生じることになりかねない。窮屈と言えば窮屈な、しかし当然と言えば当然な状況になりつつある。
 本ブログは、「ハイデッガーとキリスト教」について網羅的体系的な紹介を意図しているわけではなく、内容は断片的で不完全なものである。しかし、わたくし自身の研究との関連できちんと言及すべき先行研究が存在し、それについては、取り上げておきたい。

1.小田垣雅也
 わたくしも学生時代から、繰り返し拝読し、参照してきた研究者であり、「ハイデッガーとキリスト教」に関しても、多くの著作で一定以上の紙幅において論じている。特徴は、現代キリスト教思想の文脈におけるハイデッガーの意義についての理解、ブルトマン学派に対するハイデッガー(後期)の影響に注目した点にある。自らの思索の中でハイデッガーを取り上げ、ハイデッガー専門研究ではないとしても、「ハイデッガーとキリスト教」を論じるには、参照すべき研究である。

『解釈学的神学』創文社、1975年。
  たとえば、「第四章 解釈学と神学」では、言葉・解釈という視点で、前期から後期のハイデッガーが論じられる。その上で、「第五章 解釈学的キリスト論」における「言葉の出来事」「イエスの譬え」との関わりにおけるブルトマン学派の議論の分析や、「第六章 解釈学的神学と神」での現代神学の諸動向の分析は展開されている。

『哲学的神学』創文社、1983年。
 ハイデッガーについてのまとまった大きな議論がなされているわけではないが、「第2章 現象学、解釈学、神学」や「第3章 「関係」「間」「一」」においては、ハイデッガーの議論が神学の方法論を論じる中で、いわば不可欠の役割において登場する。自らの方法論の構築展開におけるハイデッガー論といった感じであろうか。

『現代思想の中の神──現代における聖霊論』新地書房、1988年。
 ハイデッガーについての議論は、次の現代思想の文脈との関わりにおいてなされている。「第四章 「言葉への転回」と現代神学」、「第五章 ロゴスの終焉」。

 もちろん、以上以外の著作でも、ハイデッガーについての議論は多く見られるが、上に挙げたものにおいて、小田垣のハイデッガー論は基本的な理解を得ることができるものと思われる。

2.花岡永子
 わたくしにとって小田垣が著作を通しての関わりであったのに対して(厳密には、『日本の神学』の編集委員会でご一緒したことがあるが)、花岡先生は、学生時代より、さまざまな研究会や学術大会において直接関わりをもつことができた研究者である。多くの学恩を負っていると方である。花岡先生のハイデッガー論の特徴は、ハイデッガーとホワイトベッド、キルケゴール、ティリッヒ、ブーバーなどの思想家と緊密に関連づけ、現代の大きな思想動向において捉えていること、特に、西田哲学、禅仏教と関連づけている点(キリスト教と仏教との対話という問題にも関わって)に認められる。以下、代表的なものをいくつか紹介したい。

『絶対無の哲学──西田哲学研究入門』世界思想社、2002年。
 この文献は、タイトルからもわかるように、西田哲学、絶対無の哲学がテーマであるが、そこにハイデッガー論が組み入れられている。たとえば、「第II部 絶対無の表現の問題」の「第2章 哲学における「同一性」と「自己同一性」の問題」では、副題が「ハイデッガーと西田幾多郞の哲学を介して」であり、「第1節」が「ハイデッガーにおける「同一性」の問題」となっている。また、続く「第3章 神の概念の問題」でも、「第1節」の「5-⑤ 仏教者にしてハイデッガー研究者である哲学者・辻村公一の場合」となっており、「第III部 絶対無に働く霊性」の「第3章 「過程」と「場の開け」の問題」と「第4章 有機体の哲学における時と永遠の問題」では、ホワイトヘッドとともにハイデッガーが集中的に扱われる。

『「自己と世界」の問題──絶対無の視点から』現代図書、2005年。
 ここでもハイデッガーは中心的な思想家として位置づけられる。特に、まとまった議論としては、「第二章 「身心一如」と「根源的いのち」」の「二 自然と技術の問題──絶対無の視点から」における「ハイデッガーの技術論」が挙げられる。

 小田垣の場合と同様に、花岡先生においても、ハイデッガーは自らの思索の中に位置づけられ、キリスト教と緊密な関連性において捉えられている。ハイデッガーとキリスト教とを積極的に関連づける重要な思想動向をここに確認すべきであろう。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
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