両義性と多元性、アーレントあるいはヒック

 アーレントの政治論では、政治は、自由と言論という人間の条件において可能になると論じられる。しかし、政治は他方で、非合理性と欲望、さらには運命によって規定され、動かされる営みでもある。こうした二つの面は政治を論じる際につねに念頭に置かれるべきものであり、政治だけでなく、宗教も含めた人間の活動の基本的あり方をここに確認することができる。ティリッヒの言う、本質存在と実存存在とを前提とした両者の混合=両義性は、この人間的生のあり方にほかならない。

 こうした両義性の特性の一つが、脆弱さ、脆さである。この脆さは可能性のレベルにあっても、不安として現象するが、一定の条件下で現実化することによって、人間存在を脅かすことになる。悪の現実である。この脆さにもかかわらず、人間があえて、なおも政治に関わり、相互に言論による合意形成をめざすのに必要なのが、「約束/赦し」である、というのがアーレントの議論であり、アーレントの政治論とキリスト教思想との接点の一つはここに存在する。
 この両義性は、政治や宗教(宗教文化という仕方で捉えられる宗教)を含めた日常性(意味世界)のレベルにおいては、人間の相互性に立脚する「約束/赦し」においてその脆さについての一定の解決を図ることができるかもしれない。しかし、人間の相互性のレベルでの「約束/赦し」が十分な解決になり得るかについては、さらなる考察が必要となるだろう。
 たとえば、ブーバーが、「我と汝」という根源語から、さらに「永遠の汝」へと議論を延長したことは、この点に関わっているように思われる。「永遠の汝」は、日常性の「我と汝」における「汝」の延長線上に位置づけられるが(あるいは、すべての「汝」は「永遠の汝」に対する「窓」)、この「永遠の汝」こそが「我と汝」が「我とそれ」に還元され解体されることを防いでいるのである。人間存在には他者を「物」として理解し処理するという傾向性が存在するが(キリスト教的には罪)、人間が「自然と文化」という平面で生きている限り、これは不可避的である(波多野の言う、自然的生と文化的生)。ここに、「宗教文化という仕方で捉えられる宗教」からはみ出る宗教の核心が存在するとも言える。こうした議論が共有するのは、人間的生の営み(政治も宗教も)を可能にする人間存在の相互的関係性は、「永遠の汝」からの一方的関係性において与えられた「賜物」「贈与」であるという思想である。

 さて、ここまでは、比較的単一な人間的共同性の内部で議論は動いてきた。「約束/赦し」も、共通された意味世界内部でイメージされている。しかし、現実のわれわれの意味世界は、緩やかに共通された世界(「地球」)を基盤にしつつも内部に多様で多層的かつ多形的な多元性を含んでおり、この複合的な多元性は、共通された世界の存立を脅かすまでになっている(環境危機、核兵器)。そこにおいては、さしあたり現象的に顕れた「永遠の汝」自体が複数的であり、一つの意味世界内部での「約束/赦し」では、解決不可能な問題を生み出している。宗教的多元性とは、こうした事態に関わっている。
 この複合的な多元性を扱うための議論としては、古典的にはカントを、そしてヒックを取り上げることができるであろう。なぜ、「真実在」(the Real)なのかについては、複合的な多元性にもとにおける「約束/赦し」の超越論的な条件という仕方での議論を行う必要があるだろう。
 ヒックの宗教的多元主義が、宗教間対話にとって有効性か否か、という議論は、宗教間対話がいくつかの基本的問題系に分節可能であり(わたくしは、かなり以前のことになるが博士論文でこの問題を扱った)、そのどの問題系に対しての有効性なのかという精密な議論が必要である。宗教間対話は、決して単純な問題ではない。
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