宗教哲学・否定神学の系譜

 現在、京都大学キリスト教学研究室に関わりのある研究者に集まっていただき、「宗教哲学・否定神学」研究会が活動している。これは、ドイツ語論集(Werner Schüßler編) Wie läßt sich über Gott sprechen? Von der negativen Theologie Plotins bis zum religiösen Sprachspiel Wittgensteinsの翻訳という目標で組織されたものであり(以前にマクグラスの翻訳で同様の研究会を行ったことがある)、その点で活動内容はきわめて明確なものである。
 この研究会も、論集の各論文の翻訳担当者による内容の解説・検討を中心とした作業が、9月中に終了する予定であり、より実際的な翻訳作業が中心となる次の段階に進む前に、いくつかの論点を指摘し、研究会の成果をメモしておきたい。

・否定神学は思想的系譜をなしている。
 この論集で取り上げられるのは、西洋思想史の範囲では、新プラトン主義からウィトゲンシュタインまであるが、論集最後の論文が扱う「道教と仏教(主に中国仏教)」をも含めれば、「否定神学」とは、時代的にも伝統的にも、かなり広範な思想領域において展開している思想であることがわかる。しかも、これらの否定神学は、直接的間接的な影響関係からほとんど影響関係が想定できないものまで、共通のモチーフを共有することによって、繋がっている。「思想」自体が独自の歴史性(社会史的な歴史的連関とは明らかに異なったレベルにある)を有しており、それには、系譜という表現をあてはめることができるだろう。

・系譜を構成する思想基盤
 系譜が社会史的な歴史的連関とは異なるレベルでの繋がりとして存在していると言えるためには、そこに、人間学的というべき構造を想定することができるかもしれない。哲学的には、伝統的に存在論として追求されてきた事柄であり、20世紀には人間存在の存在論として多くの思索を生み出した。
 こうした人間学的な前提と思想系譜を媒介する位置を占めるのが、さしあたり西洋的思惟に限定してのことであるが、ヘレニズムとヘブライズムとして、あるいはオントロギアとハヤトロギアといった仕方で論じられる、思想基盤である。今回、取り組んでいる論集に収録された論文は、さまざまな時代状況を背景にして展開された否定神学(宗教哲学)を扱っているが、全体を通読して気づくのは、そこに新プラトニズムに遡る思想モチーフ(これはプラトン自体へ、そしてさらに過去へと遡ることは言うまでもない)と聖書に遡る思想モチーフが相互に多様な相互関係において作用していることである。京都大学キリスト教学研究室で共有されている(?)、共通関心の一つに、有賀鐵太郎の提唱したハヤトロギア、あるいはオン・ハヤトロギアという問題が存在するが、この思惟基盤において展開する思想系譜を考えるときに、否定神学というのは、多くの成果が期待できる有力な研究の場となるように思われる。

・一方で存在論へ、他方では言語論・象徴論へ。
 否定神学では、「超越的なもの」についての認識や語りが重要テーマとなる。それは、認識論という問題領域を中心としたものとも言えるが、それと区別されるが同時に相互に連関し合ったものとして、論理(アナロギアをめぐる多様な議論を含めた)と言語論(これ自体、古代から現代まで豊かな思索を包括している)という二つの問題領域へと広がっている。そして、こうした諸問題領域は、人間論・人間学へと展開を要求し、さらには存在論的思索へ到達する。
 否定神学は、哲学的思索が動いている諸問題領域を全体として見る視点を与えてくれる。この全体をどのように見、どのような思索を生み出すかによって、個性的な思想家の思索を理解する試み、これが、今回翻訳を試みている論集と言えるであろう。
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