生の現象学、あるいは映画より

 生は、存在と共に、実在を記述する際の根本概念というべき位置を占めている。それゆえ、生をめぐる問題は広範囲及ぶが(本ブログで最近取り上げているアガンベンの論じる「生の形式」もそれに属する)、20世紀の生をめぐる問題で注目すべきものは「生の現象学」であり、それはキリスト教思想とも密接な関わりを有している。
 その実例として挙げられるのは、ティリッヒの「生の現象学」であろう(『組織神学』第三巻はその到達点である)。その内容は、次の3点に集約できる。
・生は本質と実存の混合である。これは生の基本的特質である「両義性」の規程である。
・生の弁証法的ダイナミズム(自己同一、」自己変化、自己帰還)。これは、ティリッヒにとっては、若きヘーゲルの「生の弁証法」に遡るものであるが、三位一体論との関わりでキリスト教思想の核心に触れる議論である。
・生の「多次元的統一性」、つまり生の次元論(生の構造論)。これは現代科学との関わりで特に注目すべきものであるが、「深みの次元」という仕方で宗教的問いのも関連づけられる(それから生の自己超越性としての宗教)。

 これらの中で、「次元論」は実在を「次元」というメタファーで記述する試みであるが(これと競合するメタファーが「層」である)、ここで考えたいのは、「メタファー」は多様な経験領域に由来する素材に基づいている点である。

 先週は、集中講義のため東京に滞在したが、その間、生の現象学について改めて考えることができた。今回の素材は映画である。2015年の映画に、中谷美紀主演の「繕い裁つ人」がある。中谷演じる「南一枝」が2代目として経営する洋裁店を舞台にして、人と服の関わりを描いた作品であるが、「服」というのは宗教にとっても重要なメタファーであり(この点についても、アガンベンの議論を思い出していただきたい)、さまざまなことを考えさせられた。
 一枝の仕事の大きな部分は一つの服をそれを着る人の一生の変化に応じて「繕う」ことである。服は着る人に寄り添って繕われ、生のプロセス(生涯)に重なるものとなる。
 しかし、もう一つのモチーフは、一人の人に着てもらうために新しいデザインの服を仕立てることであり(=裁つ)、それは映画の進行の中で次第に顕わになる。生は、過去を切断し新たに始まるものであり(誕生がそうであるように)、そこに生の個別性が成立する。こうして、「服」において、繕うと裁つという仕方で、生のプロセスが弁証法として生成することになる。つまり、繕うと裁つことは、矛盾し排除し合うものではなく、一つの生のプロセスの中にそれぞれの場を占めるものなのである。同様のことは、伝統と革新との間にも存在する(こちらは、ティリッヒが論じる歴史的生の弁証法に属する)。

 しかし、生の現象学は、以上で尽きるものではない。それは、服とは別の、たとえば、家具とか建築といったメタファーを登場させることで明瞭になる。それは、生が世代を超えて受け継ぐものであるという点である。実は、「繕い裁つ人」で言えば、1代目と2代目(祖母と孫)との関係がそれを指示している。つまり、生には受け継ぐ・結ぶという視点を外すことはできないのである。
 この受け継ぐ生は、環境論における世代間倫理の問題であり、あるいは東アジアの宗教性を構成する生の連続的実在としての家・家族(おそらくは儒教的)の意味することである。

 以上の「生の現象学」についての思索は、自然神学を自然科学から社会科学へ、キリスト教から諸宗教へ、と拡張するという講義を行う際に、紡ぎ出されたものである。
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