キリスト教思想動向を理解する

 キリスト教思想を研究する際に、重要になるのは、関連する研究領域の動向を適格に把握する作業である。特に学位論文(博士)の執筆を行う場合、先行研究の把握・分析は不可欠の前提であり、それなしには、学位論文は問うべき問いも確定できないことになる。論文とは、個人の思いを叙述することが主となるタイプの文書とは異なり、研究者共同体の学問の積み上げを念頭に執筆されるものだからであり、これについては、論文博士も課程博士も変わりはない(学位論文は執筆者自身が満足できるものであることが望ましいが、いわゆる自己満足では仕方がない)。
 したがって、学位論文執筆の課程で、先行研究についてのサーベイ論文を作成することがしばしば求められる。わたくしも近年はこの点をかなり意識した研究指導を行っている。大学院の博士後期課程において一度サーベイ論文を作成し、それに改良を加えるのが望ましいとも言える。

 以上は、博士論文タイプの研究の場合であるが、よりマクロな視点での思想動向の把握が求められることもある。自分の専門研究に特化したものではなく、かなり広範囲における思想動向である。この点については、この50年の間に、キリスト教思想は、きわめて動向の整理が困難な状況に陥っているというのが、多くの研究者の実感ではないだろうか。その背景には、キリスト教思想に限らず思想全般の現代的状況が存在し、その中で、キリスト教思想がさまざまな課題だけでなく、多くの困難を抱え込んでいる。これがキリスト教思想の混沌とした現状を帰結しているように思われる。
 しかし、現状が混沌としている中で、なおも、動向の把握に努めるとなると、工夫が必要になる。

 まず、ここでも、有益な先行研究を探し、それを参照するという試みがなされねばならない。現代のキリスト教思想の動向については、次の文献は、有益な視点と情報を提供してくれる。
・森田雄三郎 『現代神学はどこに行くか』(教文館、2005年)
 1980年代頃までの神学思想の動向をイメージするにはきわめて有益である。さらに19世紀から1960年代頃までに関心があれば、同じ著者の 『キリスト教の近代性』(創文社)が参照できる。しかし、これからがカバーするのは、30年あるいは40年前までである。
・熊澤義宣、野呂芳男編 『総説 現代神学』(日本キリスト教団出版局、1995年)
 20世紀の最後の数10年のキリスト教思想の動向を、かなり広範囲に提示している。しかし、ここから現代キリスト教思想のその後の動向を読み取るのは、かなり大変な作業となるだろう。
・栗林輝夫 『現代神学の最前線 「バルト以後」の版籍を読む』(新教出版社、2004年)
 キリスト教思想の動向を、かなり現在に近い地点まで、整理して提示している。現代のキリスト教思想の動向を把握する上で、直接的な示唆を多く得ることができる。しかし、その視野は英語圏(アメリカ)を中心にしており、より広範な範囲となると、なかなかむずかしい。

 したがって、21世紀に入っての思想動向については、地図のない領域へと大胆に足を踏み入れることが必要になる(もちろん、地図を探せばそれなりに存在しているが)。
 そこで求められるのは、20世紀頃までの信頼できるいくつかの地図を参照しつつ、その後の状況については、思想動向を捉えるための見取り図(仮説)を設定し、それによって動向を描く作業をともかくも開始し、その後に必要な改訂、微調整、また大幅な変更を行うことである。比較的はっきりしたところを足場に、あとは推測や憶測を交えつつ、進んでみるしかない、ように思われる。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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