南原繁演習より1

 本ブログでは、これまで、さまざまな企画を立てつつも、途中でたち切れになった場合が少なくない(と思う)。それは、次々に書く記事の内容にまぎれて、以前の記事の内容が急速に視界から消えてしまうことに原因の一端がある。ブログの記事の整理の仕方を工夫すればよいわけではあるが、過去の企画の中断はそのままにして、今回から、タイトルに示した企画を開始したい。それは、現在、京都大学で行っている南原繁『国家と宗教 ヨーロッパ精神史の研究』(1942年。岩波文庫)の演習が、なかなかおもしろいので、テクストの抜粋を中心にメモをつくって行きたいと考えたからである。
 昨年度後期は、同じテクストの、三つの序と補論「カトリシズムとプロテスタンティズム」を読んだが、今年度は、前期に第一章と第二章、後期が第三章と第四章を扱うことになっている。これで、『国家と宗教』の演習は完了する予定である。

 では、第一章「プラトン復興」の「一 時代の問題」(23-28頁)より。
 この「一」は、プラトンを論じる前提となる、時代的な背景と『国家と宗教』の問題意識と関連した事柄が論じられる。
 まずポイントとなるのは、南原は、ソクラテスやプラトンに先立つ古代ギリシャの思想状況を「古い啓蒙時代」と規定し、近代的啓蒙主義との並行関係(「本質的契合点」)を意識していることである。こうした古代ギリシャ=啓蒙、というとらえ方は、少し時期的には先立つ波多野精一の『西洋宗教思想史 希臘の巻第一』(1921年。全集第三巻)において、明確に示されたものであり、両者の間には、力点の相違が見られるものの、同じ研究史的状況を共有していると思われる。実際、波多野と南原の間には、さまざまなな類似した議論が存在しており、その点も興味深い。
 さて、ここでの啓蒙とは「危機」の時代を意味する。「ギリシャ民主政治」が「支配的指導者のあいだの醜い党派心と極まりない所有欲、それに対応する一本民衆の側においても自由の濫用と同じく利己的欲求」において退廃と破滅に瀕していたのである。京王精神には、「普遍の分裂、全体からの個の分離」の主張が内在しており、それは「個人の自由と幸福が生活の基準である功利的人生観と機械的な国家および社会観」を生み出した。個人主義的相対主義、客観的真理の喪失・・・。つまり、ソフィストの登場である。「近代精神」はこのソフィストの系譜に立って、「より正確に組織的に形成されたもの」と言われる。
 ここに生じるのが、「頽廃した悪しき国家に対して、正しき国家の再建を企てる」、「普遍を回復し、人間生活に客観的な基準を与える」という課題であり、南原はそこにソクラテスとプラトンの思想的意義を認め、それを「真に人間の学としての哲学」と規定する。この「人間の学としての哲学」ということで、念頭に置かれるのは、近代啓蒙主義におけるカント哲学であるが(第三章で詳しく論述)、南原の同時代の哲学的人間学をめぐる議論も南原の視野に入れられていたのかもしれない。これが、二つ目のポイントである。
 こうした「時代の問題」の考察に続いて、「近来のプラトン研究」の動向への言及なされる。それは、プラトンを現代の「新たな生の共同体意識、生ける国家的意識」との関連で論じるものであり、南原は、こうした動向を明確に意識しつつ(「二 新プラトン像の性格」で具体的に論じられる)、それがプラトン哲学の基本性格に合致したものであることを主張する。これが第三のポイントである。「彼のいう哲学は、決して単なるここの教説や理論ではなく、人間の全的転回、それによって人間と世界の全体の像を形づくる精神の世界の創造である」、「そのイデア界の模像として政治的国家共同体を描いたことは意義が深い」、「人びとが従来考えてきた以上に、多分に政治的・社会的性格を持つものであることを拒むわけにはゆかぬであろう。」(28)
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