南原繁演習より2

 5月の連休が終わったばかりですが、連休前に、南原繁演習では、『国家と宗教』の第一章の「二 新プラトン像の性格」を読みました。内容は、1920年代から30年代にかけての「ゲオルグ派」のプラトン研究者(ザーリン、アンドレー、ヒルデブラント、ジンガーら)による新しいプラトン像の検討です。ゲオルグ派ということからわかるように、第一次世界大戦からワイマール時代にかけての新しい学問動向の中に南原の政治哲学も関連しており、それは、「学問と生」をめぐる広範に広がったドイツにおける論争という文脈に位置づけられます。この論争は、ハイデッガー(特に初期から20年代にかけての)や、トレルチ、バルト、ティリッヒなどに関わり、後にナチズム政権の誕生にいたるものです。
 こうして提出されつつあったゲオルゲ派の研究者による「新プラトン像」は、「ナトルプ、コーヘンなどによっていちじるしく形式的・論理的に解明されて来たところの、いわゆる新カント学派のプラトン像」と対比されるべきものであり、南原の紹介はきわめて明瞭です。
その性格は、次の三点にまとめれらます。

プラトン哲学の政治的性格、『国家論』の中心性。
 「イデア」「本源的な宇宙の力が国家を造り営むのは」「「エロス」の媒介」による。エロスは、全体的共同社会の建設に立ち向かう精神、単に知識の追求としてではなく、世界と宇宙の産みの力である。
 全体としての共同体は、哲人・戦士・一般庶民の三階級から成る身分制国家であるが、これは国民的文化の理念自身(「生ける全体的国家」)のうちに存する分類である。
 「哲学と国家とが深く内的に結合」された「国家創造の哲学」。
(国家の「理念」という位置づけに注目。つまり、ここでの三階級は、デュメジルがインド・ヨーロッパ語族の神話体系における三区分イデオロギーとして分析したものと合致するが、三階級は歴史的由来の問いとしてよりも、理念の問いとして捉えられているわけである。)

・「哲人王」の存在
 「政治的指導者として建国の象徴」、「宇宙と国家と人間は一大調和の実現」であるが、「国家はまさにその中間にあって他の二者を結合する媒介者」、そして「国家のうちにあってさらに媒介者たる者がこの哲人」、「天と地、神と人とのあいだを媒介する半神人のデモーニッシュな性格」
 「「哲人政治」の思想」「国家権力と哲学が一つに結合」「精神世界における最高の支配が、同時に現実国家においての支配者たることが要請されている」、「もはや法をもってする政治ではなく、国家の規範は哲人たる主権者において具体化せられてある」
 「「正義」」「成員相互と国家全体とのあいだの生の有機的統一関係」、「世界創造の力、結局、ソクラテスとプラトンその人において具現される根源的生命」、「正義は、抽象的な形式ではなくして、「生の感情」であり」「「国民の信仰」として捉えられてある。」

「神政政治」の思想
 「最高の共同体としてのイデアの世界の実現たる国家は、それ自ら人間最高の徳の世界の映像にほかならずして、国家はまたそれ自体まさに神の国である」、「神が究極の統治者」、「祭祀と政事、精神と力が一つに結合せられた国家」
 「哲学者たる国王はただ神々とその子等の国においてのみ可能であって、現実の国家においては期待し得られないとすれば、いまや「法」において国家の規範が立てられる」、「しかるに」、「「ノモイ」は」「道徳的生活の規範を包含するのみならず、進んで新しい宗教的規範を定め、その教義と信仰によって国民の生活内容を律せんことを要求する」、「立法者は、もはや単なる人間ではなく、神が特に遣わした魔神的存在-神的創造者」「神的英雄たる立法者」
 「国民と国家との新しい創造は」「個か的宗教の規範にその期待がかけられてある」、「聖なる祭り」、「輪舞においては、二ねGンは諧調とリズムによって宇宙存在の原始状態へと連れ戻される」

 以上のような性格を有する新しいプラトン像に南原が注目するのは、次の二面的な意味があるものと思われる。
・新しいプラトン像と南原の問題意識の合致。南原もプラトン哲学を政治哲学として解釈するという問題意識をもっており、それはゲオルグ学派と共有されるものである。また、19世紀末から第一次世界大戦後の時期に出現した「危機」(政治的学問的)を「生の統一」の再建によって乗り越えるということも、両者で共有されている。

・しかし、このゲオルグ派の新しいプラトン像をもって現代文化に臨むことは、「危険を包蔵している」。この危険は、ナチズムの問題として具体化するものであり、本書「第四章 ナチス世界観と宗教」の問題にほかならない。これが、『国家と宗教』における南原の基本的な問題意識であると言えるであろう。こうした議論を行うに際して、政治的ロマン主義の分析は不可欠であり、カール・シュミットは注目すべき思想家と思われるが、南原はこれらをどの程度視野に入れているのだろうか。
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