南原繁演習より4

南原繁の『国家と宗教』(岩波文庫)の「第一章 プラトン復興」「四 プレトンの批判的意義」(5月16日・演習)の概要です。

 この「四」は、「二」「三」でゲオルゲ派のプラトン研究の動向分析の整理と批判的解釈に続いて、南原自身のプラトン理解が明示され、第一章が締めくくられます。

 一面、プラトンの『国家篇』の意義を強調し、プラトンの政治哲学・国家哲学に注目する点で、南原もゲオルゲ派のプラトン解釈と問題意識を共有していることは確かです(そうでなければ、本書で、取り上げる必要もなかったでしょう)。その点で、南原も、新カント学派のプラトン理解の不十分さを批判しているとも言えます。しかし、南原のプラトン理解は、プラトン国家論をあくまでも哲学として評価する点で、新カント学派のラインに立ってそれを拡張するものと解するのが適切でしょう。カントのプラトン解釈を基盤にしているという点で、ゲオルグ学派には同意しないのが南原の立場です。

「現代におけるプラトン復興の性質と、それにまつわる危険と問題」「プラトンにおける意義は反って他に存する」「根本においてディアレクティックな哲学的思惟要素」「正しく理解したのは他ならぬカントである。」(50)
「ソフィスト、ソクラテスが発見した人間の観念から」「形而上学の創始者としてのプラトンの意義」(51)
「学問・哲学の開始者」「古代世界においてキリスト教の神の座を有し得る唯一の哲学」(52)

 この点で、プラトン、あるいはギリシャ人は、「東洋的神話の世界」「古代民族」と一線を画する。それは「知識に対する愛」としての哲学にほかならないわけですが、南原は、プラトンの『ポリテイア』について、次のような理解を提示します。

イデア論は「世界の全体との関連により人間社会性格との規範を立てようとしたこと」「国家の世界感的基礎づけ」であり、これによって「国家観と世界観とを不可分に結合させて」、「無体系な単なる「生」の表現または「詩話」的構想ではなく、まさに一個の形而上学的体系」(53)を提示した。

 ここから、1920年代の学問論争における南原の位置は、「生」の神話的強調に対する「学的体系」を優先させるものと評することが可能になる。
 善のイデアは「現実的には不可達成的であるが、なおかつ、これが達成への不断の努力の標的」として、カントの解する「理念」として意義深いのであって、それは確かに「理想と現実の二元の永遠の分離」ではあるが、「「課せられた」理性の永遠の標的」への「二元の克服への絶えざる戦」の中に「統一と調和」を求めるものなのである。ゲオルグ学派の「神話的国家とは永久に区別されるべきもの」(55)なのである。

 しかし、南原はカントの理解を出発点としつつも(57)、「プラトン」「カントにとどまってはならぬ」(58)と考える。「プラトンの偶像化」(59)は南原の取る道ではない。それは、南原にとって「現代の急務はまず政治的社会価値の確立にある」(56)からである。「文化価値相互のあいだにおける政治的価値の関係の問題」(56)を解決するという課題であり、これは南原の価値並行論が取り組んだ問題にほかならない。

 カントを出発点とした政治的社会価値の追求は、本書第三章のテーマとなるが、「カントを出発点」とするという選択は、波多野の宗教哲学に比較すべきものかもしれない。

「カントの構成した認識論的基礎と批判的方法との上で行われることが重要である。現在の新カント学派は言うに及ばず、ヘーゲル的弁証法哲学あるいは解釈学ないし現象学において、いずれもみなそうした方法と基礎が考察の中心となっているのである。」(59)

 第一章の最後は、「わが国」の「日本精神あるいは東洋精神の復興の声」(60)へ言及することで閉じられる。南原は、そこに「学的思索からの逃避」(61)を読み取っているが、南原の思索は、現代日本の批判にとどまらず、「われわれの建設すべき新しい日本文化の理念」へと進んで行く。これが具体化されるのは、太平洋戦争後を待つ必要あったが、南原の問題意識はこの点で明確な連続性を有していると言えよう。
 南原は、本書の随所に現代日本批判をちりばめている(中心は第四章)。これは、1942年という時代状況が課した制約と言うべきものであるが、しかし、南原は矢内原に比肩できるレベルで実に大胆である。それは、思想的な本格的課題を常に視野に入れていたからかもしれない。

「おのおのの民族が歴史的特殊性をいかにして普遍的人類的なものにかかわらしめるのか、所与の現実を通していかにして理性の当為を実現すべきかは、「学問」におけると同様に「政治」においての根本の問題である。」(62)
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