現代の宗教状況の背景

 現代神学の動向を論じる場合、その背景をなす状況に注目することが必要である。特に近代以降、神学は神学者個人の営みという面が顕著になってきており、議論は個人史の細部に及ぶという研究傾向が見られる。しかし、より大きな視点が「現代神学の動向」といった議論には不可欠であり、そうなると、きわめてでこぼこのある個人的環境をいわば規定する共通の共有された状況の方が問題となる。
 では、現代の状況はどのような視点を必要とするだろうか。わたくしは、これについて、大づかみに次のようなイメージをもっている。このイメージは、欧米のプロテスタントの伝統教派に関わる神学部・神学校における神学を主たる素材としている(たとえば、20世紀の、現代の神学にとって、弁証法神学運動が転換点あるいは規定要因となったいたという理解が可能な神学の範囲である)。
 近代内部での近代批判(1920-1960年代):宗教と文化、国家と教会、といった対立図式をめぐる状況が神学的思索を色づけている。これは、自律と他律の問題と図式化できるかもしれない。
    ↓
 西欧近代の相対化と近代からの脱出(1970年代以降):この時期には、「宗教と文化」(キリスト教と共産主義や、キリスト教と近代科学といった構図)以外に、西欧近代の外部に置かれていた諸伝統・諸文化が西欧内部においても、多元的状況を無視できないものとして現実化し、それが神学のテーマとなるに至る。それとともに、近代以降が思想的な問題として顕在化する。いわゆるポスト・モダンと呼ばれる動向である。
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 21世紀以降の変動:従来の対立軸(右派・右翼と左派・左翼、保守と進歩、自由主義と社会主義、共和と民主)は、その重要性を後退させ、むしろ注目すべきは、いわば「上と下」とでも言いうる形になる。 これは、キリスト教神学とも無関係ではないが、目立つのは、ネグリ用語を用いれば、「帝国とマルチチュード」と表現できるかもしれない。この新しい構図の動向(欧米・ヨーロッパ)を知るには、たとえば、次の文献が参照できる。本ブログでも何度か紹介してきた、堤未果の一連のアメリカ・レポートもこうしたものとして挙げられるだろうか。

ブレイティみかこ
『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』
岩波書店、2016年6月。

I 
こどもの貧困とスーパープァ
格差社会であることが国にもたらすコスト
ハラール肉と排外ヒステリア
アンチ・ホームレス建築の非人道性
アンチ・ホームレスの鋲が続々と撤去へ
BBCが外注者にする質問──「あなたはゲイ?」「ご両親は生活保護受給者?」
貧者用ドアとエコノミック・アパルトヘイト
餓死する人が出た社会、英国編
英国式『マネーの虎』で失業率を下げる方法
スコットランド狂想曲──経済とスピリットはどちらが重いのか
スコットランド狂想曲2──市民的ナショナリズムと民族的ナショナリズム
海辺のジハーディスト
地べたから見たグローバリズム──英国人がサンドウィッチを作らなくなる日
風刺とデモクラシー──今こそ「スピッティング・イメージ・ジャパン」の復活を
トリクルアウトの経済──売られゆくロンドンとディケンズの顔
アンチ・グローバリズム・イン・ザ・UK──スコットランドが示した新たな道

II
政治を変えるのはワーキングクラスの女たち
英国が身代金を払わない理由
フェミニズムとIS問題
労働者階級のこどもは芸能人にもサッカー選手にもなれない時代
人気取りの政治と信念の政治
スコットランドの逆襲
固定する教育格差──「素晴らしき英国の成人教育」の終焉
「左派のサッチャー」がスコットランドから誕生?
国の右傾化を止めるのは女たち
英国総選挙の陰の主役、スコットランドが燃えている
英国選挙結果を地べたから分析する──やっぱり鍵はナショナリズム
住民投票と国民投票──国の未来は誰が決めるのか
「勝てる左派」と「勝てない左派」
右翼はLGBTパレードに参加してはいけないのか
スコットランド女性首相、現地番ネトウヨの一掃を宣言
ギリシャ危機は借金問題ではない。階級政治だ
ギリシャ国民投票──六人の経済学者たちは「賛成」か「反対」か
ユーロ圏危機とギリシャ──マーガレット・サッチャーの予言
英国政治に嵐の予兆?──「ミスター・マルキスト」が労働党党首候補No.1に
英労働党党首候補コービン、原爆七〇年忌に核兵器廃絶を訴える
英国で感じた戦後七〇年──「謝罪」の先にあるもの
欧州の移民危機──「人道主義」と「緊縮」のミスマッチ
英労働党に反緊縮派党首が誕生──次はスペイン総選挙だ
再び暴動の足音? ロンドンがきな臭くなってきた
左翼が大政党を率いるのはムリなのか?──ジェレミー・コービンの苦悩
ロンドン市長「移民を受け入れないと日本のように経済停滞する」
保守が品格を失うとき──ジェレミー・コービンが売りだすエリートの悪意
パリ同時多発テロ──レトリックと復讐。その反復の泥沼
元人質が語る「ISが空爆より怖がるもの」
右も左も空爆に反対するとき──キャメロンの戦争とブレアの戦争
仏選挙で極右が圧勝。でも英国はジェレミ-・コービン労働党が白星
スペイン総選挙でポデモス躍進──欧州政治に「フォースの覚醒」
左派はなぜケルンの集団性的暴行について語らないのか

III
米と薔薇──新自由主義の成れの果ての光景
民主主義ってコレなのか?──ポデモスが直面する現実

あとがき

 短いエッセイが収録されたもので、読みやすい本と言える。なんと言っても、視点が重要。
 「欧州政治は猛烈なスピードで動いている」が、日本のメディアはそれを伝えきれていない。その点、この著書の出版を通した岩波はさすがと言えるだろうか(近年、変な企画が目に付きすぎるとはいえ、がんばっていただきたいものである)。
 また、著者が「あとがき」で、「ポピュリズム」の意味について、指摘している論点は、面白い。「若者を熱狂させるこれらの左派たちは、ポピュリズムと呼ばれることをまったく気にしない。それどころか、誇りにすら思っている節がある」(287)。
 これは、現在進行中のアメリカ大統領選挙にあてはめれば、どうなるだろうか。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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