キリスト教史の叙述をめぐって

 歴史学・歴史叙述は、事実の確認を基礎とする客観性が問われる学問分野ではあるが、実はこのように期待されるほど、実際の歴史叙述が単純ではないことはよく知られた問題である。これは、当然、キリストj教史の叙述についても当てはまる。

 たとえば、キリスト教史について、比較的最近、日本人の研究者(たち)によって出版されたものとして、次の二つがあげられる。

・山川出版社「宗教の世界史」
松本宣郎編 『キリスト教の歴史1──初期キリスト教~宗教改革』 (2009年)
高柳俊一・松本宣郎編 『キリスト教の歴史2──宗教改革以降』 (2009年)
廣岡正久著 『キリストの歴史3──東方正教会・東方諸教会』 (2013年)

・日本キリスト教団出版局
荒井献、出村彰、出村みや子著 『総説 キリスト教史1 原始・古代・中世篇』 (2007年)
出村彰著 『総説 キリスト教史2 宗教改革篇』 (2006年)
栗林輝夫、西原廉太、水谷誠著 『総説 キリスト教史3 近・現代篇』 (2007年)

 どちらもキリスト教の通史を三巻にまとめたものであり、専門の研究者によって書かれている。しかし、この二つを比較するとき、大きな違いにすぐに気付くであろう。山川出版社からのものは、世界宗教史の中のキリスト教の歴史であり、キリスト教の歴史を包括的に提示するという意図が見られる。それは、三巻目が「東方正教会・東方諸教会」をあつかっている点にも現れており、またカトリック史にも一定以上の頁が割かれている。
 それに対して、日本キリスト教団出版局からのものは、「キリスト教史」とは言っても、特に宗教改革以降の現代までの内容は、もっぱらプロテスタント・キリスト教史であって、カトリックや東方正教会は視野に入れられていない。これは、プロテスタントの教派に属する教会に関わる出版社の企画ということが反映していると考えて良いだろう(どこまで、意図的かは別にして)。
 こうして、同じ「キリスト教史」というタイトルで、かなり異なった歴史像が提示されることになったのである。

 歴史叙述の客観性とは何であろうか。
 以上は比較的わかりやすい例であるが、「歴史叙述」とは、そのほかにもさまざまに問われるべき問題を含んでおり、あまり簡単に考えるべきではないように思われる。
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