演習で聖書を読む

 かなり以前から、わたくしは、自分の専門領域ではないにもかかわらず、大学で新約聖書の演習を行っており、現在は、ローマの信徒への手紙の4章を読んでいるところである(どうしてわたくしが新約まで担当するのかと言えば、それは大学に対する運営費交付金の継続的で長期にわたる減額・シーリングによるものである)。
 
 専門外であっても、演習を成立させるためには、それなりの工夫も必要であるが、新約聖書研究という分野の実情にも助けられている。それは、ギリシャ語原典で聖書を読むために便利が道具(辞書や文法書はじめ。日本語に限定しなければかなり使える道具が存在する)がかなり揃っていることであり、それを利用すれば、一定水準(少なくも初級程度の)演習は困難ではない。
 その上での工夫であるが、わたくしは、複数の注解書(日本語、英語、ドイツ語は基本として)を受講生に担当してもらい、注解書を相互に対照させ一つ一つの文言を丁寧に分析することを目標にしており、それによって、聖書学的に何が問題なのか、それに対して歴史上の思想家(教父や宗教改革者)や現代の研究者がどのように答えているかが、把握可能になる。
 演習の目標は、注解書を対照させて原典を読むという方法を身につけることである。

 どんな注解書が存在するかについても、英語圏にかぎって言えば、次の文献が利用できる。

D. A. Carson,
New Testament Commentary Survey, Seventh Edition,
Baker Academic, 2013 (1986).

ローマの信徒への手紙に関しては、英語圏での注解書としては、ICCに収録のクランフィールドの注解の評価が高いことは、この文献からも確認できる。実際、複数の注解書を対照させるとき、クランフィールドの質の高さは実感である。なお、日本語のものとしては、松木治三郎『ローマ人への手紙 翻訳と解釈』(日本基督教団出版局1966年)と原口尚影『ローマの信徒への手紙 上巻』(新教出版社、2016年)、そして田川建三訳聖書の訳注、を使用している。

 もう一つの工夫としては、原典を読むことに並行して、研究書(英語かドイツ語)を読むことによって、聖書学の動向などについても、必要な知識を得ることを心がけている。今年度は、次の文献を読み進んでいる。

David G. Horrell,
An Introduction to the Study of Paul, Second Edition,
T & T Clark, 2006 (2000).

現在は第三版が出ているようであるが(受講生は、第三版を使用している者もいる)、演習では、わたくしの手元にある第二版を使っている。
 明晰かつバランスの取れた優れた研究入門であり、演習で使用するには適当である。教師も学生も、新約聖書学の専門家がいないところでの演習の目的は、この演習の後にも、自分一人で原典を読む基本を身につけることであり、それが達成できれば、まずは十分と考えている。キリスト教学という学問は、どんな研究領域であっても、聖書は基本中の基本であり、聖書を翻訳で読む以上の学力は、不可欠である。
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