パウロを読む

 京都大学の演習で、パウロを読むようになって5年目の授業があと残りわずかになりました(1月に2回)。ローマの信徒への手紙を連続して読み始め、今年で4章が完了しました。これで信仰義認論は内容的に確認されたことになります。

 さて、パウロと言えば、現代も新たな読み直しがなされている思想家ですが、従来から、いつくかの難問(?)がありました。その典型は、たとえば、次の言葉です。

「ローマ書13:1 人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に由来しない権威はなく、今ある権威はすべて神によって立てられたものだからです。」

 この言葉をめぐる解釈・論争の歴史については、宮田光雄 『国家と宗教』 (岩波書店)をご覧ください。
 パウロにかぎらず、本来その言葉が置かれていたコンテクストから切り離して解釈を行おうとするとき、しばしば人為的で擬似的な難問が生じることがあります。このパウロの言葉は、その典型と考えるべきです。問題の言葉をどのような文脈に位置づけるかによって、解釈者の力量が試されるとも言えるでしょう。

 わたくしの最近の考えは、この言葉はバルトが言うように直前の12章の文脈が受容であるとともに、パウロの終末論ち関わる倫理的な勧めとも言える、たとえば、次の言葉との連関で読むということです。

「一コリント7:17 おのおの主から分け与えられた分に応じ、それぞれ神に召されたときの身分のままで歩みなさい。これは、すべての教会でわたしが命じていることです。18 割礼を受けている者が召されたのなら、割礼の跡を無くそうとしてはいけません。割礼を受けていない者が召されたのなら、割礼を受けようとしてはいけません。19 割礼の有無は問題ではなく、大切なのは神の掟を守ることです。20 おのおの召されたときの身分にとどまっていなさい。21 召されたときに奴隷であった人も、そのことを気にしてはいけません。自由の身になることができるとしても、むしろそのままでいなさい。22 というのは、主によって召された奴隷は、主によって自由の身にされた者だからです。同様に、主によって召された自由な身分の者は、キリストの奴隷なのです。23 あなたがたは、身代金を払って買い取られたのです。人の奴隷となってはいけません。24 兄弟たち、おのおの召されたときの身分のまま、神の前にとどまっていなさい。」

 この聖書の箇所もパウロ思想の難問箇所の一つであるわけですが、こちらは、ローマ書の2章から3章の信仰義認論における、義とみなされるためには、信仰のみ(アブラハムのように)が求められるのであり、割礼も律法も前提ではない、という主張と繋げて読むと意味の理解は十分可能です。
 割礼の有無は救いの条件ではないとは、人間を分類し分断する既存の区分や身分などが無効であるとの議論、つまり、キリストにおいて、ユダヤ人も異邦人も、奴隷も自由な身分も、男も女も、一つである、その区別は乗り越えられたとの議論であり、これに、この一つであることがキリスト教共同体を超えて「この世」で現実化する終末が切迫していることを加えれば、当然、「兄弟たち、おのおの召されたときの身分のまま、神の前にとどまっていなさい」との勧めになります。

 これを、世俗的な上に立つ権威に適用したのが、先のローマ書13章1節の言葉であると考えれば、それがどんな意味かは十分に了解可能となるはずです。こうした諸前提抜きに、この言葉を読もうとするかは、議論がおかしくなると言うことでしょう。

 ジジェクのパウロ論は、以上の議論の論点を、特殊と普遍という古典的な問題において論じたものと解することができると思われます。キリスト教共同体内部での生起した特殊な「一性」の議論が、実は、普遍的意味を有しているということ。特殊に媒介できない普遍は、十分な意味での普遍ではない、ということなるでしょう。

 以上は、前回と同様の時期の、早朝の思索です。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR