ポスト近代の教育と宗教

 この1年の動きを見ても、現代世界が大きな変化の過程の中にあることはおそらく実感として共有できるものと思われる。西欧近代の諸システムが再度根本から問い直しを求まれ、リベラリズムやデモクラシーが揺らいでいる。この中に宗教も位置しており、それは、前世紀の後半から、宗教的多元性や多文化主義として問われてきた問題に重なりつつ、共同体主義的あるいは民族主義的な動向を引き起こしている。これは、日本でもそうあるが、世界的な教育の再編としても現象しており、その分析が求められている。

 こうした問題状況に対して、イギリスの教育の動向を実証的かつ精密に論じた研究書が刊行された(日本の状況も取り上げられている)。現代世界における教育・宗教とううテーマに関心のある研究者にとって参照すべき成果と言える。

藤原聖子
『ポスト多文化主義教育が描く宗教──イギリス〈共同体の結束〉政策の功罪』
岩波書店、2017年。

序章 宗教と教育におけるコミュニタリアン的転回
  一 宗教に揺れるイギリスの教育界
  二 先行研究──公共宗教論・ポストセキュラー論と宗教教育研究
  三 本書の対象・方法と構成

第一章 「宗教と暴力」の学習方法──日英教科書比較
  一 執筆者としての経験から
  二 日本の他の教科書ではどうなっているのか
  三 イギリスの教科書での「宗教と暴力」の学習方法
  四 テロに抗する教育の実践とコミュニタリアニズム

第二章 イギリスの宗教教育史──コミュニタリアン的転回以前
  一 公教育化~一九四四年教育法制定まで
  二 一九四四年教育法~一九六〇年前後
  三 一九六〇年代──「世界の諸宗教」教育の始まり
  四 宗教現象学的「世界の諸宗教」学習
  五 一九八八年教育改革法制定前後

第三章 共同体の結束へ──二〇〇〇年代以降の宗教教育
  一 多文化主義の陥穽
  二 「共同体の結束」という学習目標の導入
  三 教育界の対応
  四 疑われるイスラム学校
  五 異なる「自由」の衝突

第四章 異文化理解型からどう変化したか──二〇一〇年代の教科書分析①
  一 構成に現れる問題志向型への転換
  二 共同体の結束を促進する課題のパターン
  三 異文化理解からの変化

第五章 公共的宗教の諸相──二〇一〇年代の教科書分析②
  一 前景化する宗教の公益面
  二 宗教内部の多様性が、社会問題に対する意見の多様性に
  三 現代的価値観にひきつけた解釈が
  四 仏教のイスラム化?
  五 宗教集団との力学の影響

終章 コミュニタリアン的転回の功罪


あとがき
イギリス宗教教育関係文献一覧

 近年、世界的な視野で宗教と教育というテーマを追求している筆者ならではの研究である。特に、教科書の比較分析は、説得力がある。
 これに、イギリスの宗教史、特に聖公会の動向を重ねると面白い分析ができるように思われる。イギリスの国教会の特徴は、多元化する社会構造を統合することに見られるわけであり(via media !)、これはイギリスの場合、コミュニタリアン的転回とも無関係ではないだろう。
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