天災と人災の間(2.2)

 「天災と人災の間(2)」で指摘した論点の後半をもう少し説明しておきたい。その論点とは、「形而上学的問題と大震災での人間の苦悩・嘆きとの関係性の問題」である。

 まず最初に強調しておきたいのは、大震災から原発事故までの一連の出来事を見るとき、それは天災と人災の複合的な事態であり、前者についてもそうであるが、後者の人災については徹底した原因解明が必要であるという点である。これは、出来事の因果性を解明するということであり、自然学から形而上学へ至る思惟(理論的問いとしての神義論はこのラインに属する)が適する問いの立て方である。この解明こそが緊急の問題であり、急いで将来に向けて教訓化し、現実的対応に活かされるべきである。

 しかし、「天災と人災の間(2)」で問題にしたのは、では、こうした原因解明で完全になされたときに、この大震災と原発事故に遭遇に苦悩の内にある方々は納得するのか、という点であった。実存的な問いとしての神義論となって提起される問いは、さらに別の次元に向けられてはいないのか。それは、「なぜ」の問い、原因に対する理由の問いである。

 ここで、原因と理由という問いの相違を説明するために、仏教からの例を取り上げてみたい。仏教思想は苦(老死)からの解脱というテーマにおいて展開されてきたものと言えるが、その中心に縁起説、特に十二支縁起説と呼ばれる議論が存在することは、広く知られたことと思われる(わたくしは、京都大学理学部に入学後に教養課程(当時はそういった)で、東洋社会思想を受講した。それを担当されていたのが、荒牧典俊先生であり、先生を通して原始仏教における十二支縁起説の形成過程の文献学的な議論を一年学び、二年目も引き続き講義に出席した。その時の講義内容の記憶がここでの議論の背後にある。また、理学部より文学部に転部した際に、梶山雄一先生の仏教学概論講義を受講し、こうした授業を通した知識がもとになり、その後は素人なりの学びを続けている。荒牧先生とは、その後何度か直接お話をする機会があったが、現在は、龍谷大学でお互いに非常勤講師として授業を担当している)。

「生起を「生じて起こる」といえば、生起の時間的な前後関係(原因と結果)が問われて、それは前と後という異時的なみかたとなる。また「生起」を「生じて起こっている」といい、同時的と解すれば、論理的な関係(理由と帰結)に帰せられる。縁起にふ くまれる生起には、これら二種がある。なお、生起を右の前者と解して、どこまでも原 因を、また結果を追究してゆくならば、結局はその始元と終末を問わざるを得なくなる。……この方向は阻止されており、仏教には、たとえば世界やいっさいのものに関しての、完全な意味の起源論はなく、終末論もない。」(三枝充悳『仏教入門』岩波新書、110-111頁)

 仏教においても原因・因果性の問題圏に属する議論が存在しないわけではないが、原因と理由という二つの問いを明確に区別し、後者を焦点にする点に、仏教の仏教らしさがあり、ここにキリスト教とのコントラストは鮮やかになる。もちろん、キリスト教思想でも原因的思考からの脱却は様々に試みられており、その一つの典型はブルトマンの実論論的解釈(非神話化論化)の議論に見出すことが可能であり、これはまさに仏教にも通じる側面を

「かかる非自然の自然、逆にいへば自然の非自然といふ立場、即ち横の超越を開いた立場が、色即是空、空即是色といはれる時の佛教的な「空」の立場にほかならない。あらゆる神話の非神話化、そして神話的表象の「實存論的」な解釋といふことが、本當に徹底的に遂行され得るのは、絶對空の立場に於てのみ可能であると思ふ。」(西谷啓治「仏教とキリスト教」、『西谷啓治著作集 第六巻』創文社、280頁)

 仏教に典型的に見られる原因論的思考に規定された神話論からの脱却の試みは、原因の問いから理由の問いへの転換を意味しており、宗教的問いとして問題にすべきは、こちらにあるとは言えないだろうか。
 
 そして、意味の問いは、これら二つの問いに関連し、両者を媒介する位置を占めているのである。
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