波多野の思想史研究(5)

 波多野のギリシア宗教思想史の第三章に進みます。波多野は、詩や文学(特に古代ギリシア)については、かなりの愛着をもっていることが感じられます。

「第三章 抒情詩人」
 この章の構成は、これまでの章と同様に、まず時代状況・精神状況の概観からはじまり、その後、宗教思想についてポイントを論じるというものである。

 まず、紀元前7世紀から6世紀の時代状況について、波多野は、「個人的意識の解放を成就した時代」と規定した上で、この「新気運」の重要原因の一つとして、「商業の隆盛と植民の発展」を指摘する。「経済生活における変動」「社会的政治的生活の面目の一新」(31)が、思想にとって決定的な意味を有するという認識は、この宗教思想史研究では、一貫した視点である。波多野の思想史理解が、観念の歴史といったものではないことは明かである。
 経済変動は貧富の懸隔、新階級の発生を促し、それは激烈な政治闘争と専制君主の出現にいたることにもなったが、同時に、「国民福利をはかり、文化の発展に多大な貢献をなした人々」が出現し、この偉大なる人物の輩出はすでに「個人の解放を意味する」(32)。
 波多野はこの時代のギリシアと「近世文化の揺籃たるルネッサンス」との「類似」、つまり、「商業と植民運動との中心」における新しい哲学の誕生との関連性を指摘している。

 この新時代の新傾向を反映している詩の動向であり、それは「共通の民族的意識の範囲ないに動いた叙事詩の衰弱、詩人の主観性の流露たる抒情詩の発生及び隆盛」として現れた(32)。アルキロコス(前7世紀半)からピンダロス(522頃-422頃)に至る詩人たち。「宗教思想に関しては、ピンダロス一人を除いて、大体において同一傾向を示した」。
ソロン、テオグニスなど、「箴言詩」の作家たち、「適度及び秩序を尊重すべきこと」「情欲を制限し傲慢を抑制すべきこと」「ギリシア風の道徳思想」、「彼らの宗教思想は概念的原理的にはヘシオドス以上何ら新しき点を示さぬ」「しかしながら同じ思想も一層明瞭に言い表されている」「一大進歩」(33)

1.「第一の特色」「すでにホメロスに萌した一神教的傾向が特に著しくなったこと」(33)
波多野は、この一神教的傾向をギリシア宗教思想において意識的に辿っている。おそらくはプラトンへ。
 「ヘシオドスにおいてあったのと同じように、善を賞し悪を罰する正義の神」、「個人のなしたることに対して同族殊に子孫が報を受けるという形」「応報観」(34)
 「個人における功績と幸福との不均衡という事実に気付きはじめた時、神義論」「の問題が自覚されはじめた時、それは神の正義の観念を貫徹するに最も適宜なる手段を提供するだろう」「ソロンにおいて」(34)
「テオグニス」は「不公平不条理を痛切に感ぜざるを得なかった」、「しかしながらテオグニスはこれ以上に一歩も進み得なかった」、「人間の真価に対する運命の不公平」「悲観的気分」(35)、「人間の死後に関する彼らの思想はホメロス乃至ヘシオドス以上には一歩も進み出なかった」(36)
  一神教的傾向、神義論、人間の死後、これらは波多野が注目するポイント。

2.ピンダロス特有の位置 
 「頌詩」「神にささげた讃美歌」(36)、「神の特別な啓示を提げて民衆を教えんとする預言者的意気」
 古代イスラエルの預言者(同時代)との比較、さらには古代ギリシアと古代イスラエルとの思想的比較を波多野は構想しなかったのか。両者はペルシア帝国でつながるはず。

「伝承的神話の批判乃至拒否」
「正義の要素」「神にふさわしからぬと感じた神話の部分を」「黙殺し」「神に対する侮辱として排斥した」、「醜悪なる事柄を神に関して語るのは」「人間の不遜」(37)
cf. 「クセノファネス」「宗教に対して少なくも冷淡なるイオニアの世間的文化の空気   を呼吸し、ミレトスに発生した哲学思想の影響」「啓蒙的文化意識より伝承的神話   及び宗教を破壊」
「ピンダロス」は「父祖の信じた神々に対する敬虔尊崇の念より彼らにふさわしからぬ行為の物語を否認した」、「彼は宗教よりして宗教の為に神話に反抗した」(38)
宗教自体が宗教批判を内包する、宗教は宗教自体の止揚をめざす、これはティリッヒ的か。

「他の抒情詩人たちに比した」「特異点」
「人間の死後の運命に関する」「思想」
 「神と人とは同族であり」ながら「人は神の如く不死の生を有せず」「無に等しく」(38)
されば「神になろうと求めるな」「わが魂よ不死の生を望むな」「分を守れ」「他の詩人たちと共通なる立場の範囲を出でなかった」(39)
「しかしながら」「ただ「生命の肖像」」「のある霊魂のみは、神より来たったものとして独り生き残る。本性上永遠不死なる霊魂が人間の死ぬべき身体に宿ったは古き罪の結果である」(39)、「霊魂は更に新しい身体に宿って世に生ま出ねばならぬ」「三回以上地上において」(40)
 「今までの詩人たちに見た宗教思想に比して全く斬新」「これはオルフィク教と呼ばれる一種の宗教運動ははじめてもたらした所のものである」、「ピンダロスは多分シケリアにおいてこれを知りこれを信奉するに至ったのであろう」(40)
 霊魂不死の思想は、波多野の『時と永遠』では、文化的生の特徴として論じられ、徹底的に批判されることになる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

LogosOffice

Author:LogosOffice
 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR