思想史研究の意義

 本ブログでは、一貫して、思想研究にとっての思想史研究の意義を強調してきた。たとえば、波多野精一について論じる際に、また現代の諸思想動向を論じる際に、こうした問題意識はきわめて重要であると考えてきている。これは、波多野以来の京都大学の哲学研究の伝統の一端とも言えるかもしれない(この思想研究の視点が、日本においてどの程度共有され、あるいは学生に意識されているかは別、またやや心許ない点でもあるが)。

 こうした論点から、最近、刊行された二つの文献(まだ店頭には並んでいないかもしれないが)を紹介したい。いずれも、京都大学文学研究科で隣接研究室(同じ系)に所属の方々のものである。

伊藤邦武
『物語 哲学の歴史──自分と世界を考えるために』
中公新書、2012年10月25日。

まえがき

序章 哲学史のシトーリー
第一章 魂の哲学──古代・中世
  1 「魂」という原理
  2 アテナイの哲学──プラトンとアリストテレス
  3 地中海の哲学

第二章 意識の哲学──近代
  1 科学革命の時代──デカルトの登場
  2 心身問題
  3 経験論と超越論的観念論の立場

第三章 言語の哲学──二〇世紀
  1 論理学の革命
  2 ケンブリッジから
  3 アメリカへ

第四章 生命の哲学──二一世紀に向けて
  1 生の哲学
  2ジェイムズとベルクソン
  3 エコロジカルな心の哲学


あとがき
人名索引

「魂から意識へ、意識から言語へ、そして生命へ──。これは簡単にいうと、一つのサイクルの物語である。哲学は魂という原理から出発して、意識や言語という近代科学と密接に結びついた考え方を経由して、生命というある意味では古代の魂にも似た原理へと戻ってきた。それは数千年に及ぶ哲学のコースを一つの螺旋状の回転に近いイメージで捉えようとするストーリーである。」(5)
「「哲学の歴史(ヒストリー)を一つの物語(ストーリー)として読み解いてみる」──これが本書のテーマである。しかし、もともとヒストリーという言葉とストーリーという言葉は同じ語源から来ているのであるから、「物語 哲学の歴史」を単純に、「哲学の物語」と言い換えてもそれほど違いはない。」(315)

 本ブログでは、波多野精一の古代ギリシア宗教思想史を連続して取り上げてきているが、その主題の一つは、魂、特にその不死性の発生の現場は何処にあり、それはいかなる意義を有しているのかということである。

A・S・マクグレイド編著、川添信介監訳
『中世の哲学 ケンブリッジ・コンパニオン』
京都大学学術出版会、2012年、11月1日。

執筆者一覧
はじめに(A・S・マクグレイド)
略語と参照方法
凡例

序章
第1章
第2章 二つの中世的観念──永遠性と位階制
第3章 言語と論理学
第4章 イスラーム世界の哲学
第5章 ユダヤ哲学
第6章 形而上学 神と存在
第7章 創造と自然
第8章 本性──普遍の問題
第9章 人間の自然本性
第10章 道徳的な生
第11章 究極的諸善──幸福、友愛、至福
第12章 政治哲学
第13章 中世はどのように後世の思想に足跡を残したか
第14章 伝播と翻訳

訳者あとがき

文献表
主要な中世哲学者の略歴
年表(中世の哲学者と主要な出来事)
索引(人名・事項)

 最近の思想系の出版物で目立つのは、「・・・コンパニオン」という形のシリーズである。特に、英語圏では様々な大手出版社が競い合うかのように、こうした企画を立てている。いわば「教科書」「基本文献」的な位置づけを持たせるという出版業界の戦略とも言える(以前に本ブログでもこの点を指摘したことがある)。実際、それぞれにかなり現代性を意識し、便利で工夫を凝らした企画が少なくなく、読者にとっては歓迎すべき点も多い(しかし、こうしたシリーズを個人で目を通し、ましてそろえることは困難である。当面は図書館で学生向けにそろえるべきものであろう)。
 今回翻訳刊行された「ケンブリッジ・コンパニオン」は、こうした企画でも老舗の優れたシリーズである。「本書は、さまざまな哲学者や哲学的概念について、学問的な水準を守りながらコンパクトに紹介する「ケンブリッジ・コンパニオン」シリーズの一冊である」(507)と解説される通りである。
 読者は、第4、5、12、13、14章などのテーマ設定と論述に、これまでの西洋中世哲学のイメージとは別の最近の動向を見ることができるであろう。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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