波多野の思想史研究(8)

「第六章 クセノファネス Xenophanes」

 この章は、分量的にはやや短かめであるが、波多野の思想史研究の特徴がよく表れており、また、波多野自身、クセノファネスにかなり関心をもっていることがうかがえる。内容を整理して、まとめてみたい。

1.人物と時代
・「著作の断片」「人格の鮮やかなる印象を与える」
イオニア出身、自由で強い鮮やかなる個性、二十五歳の時故郷を去ってさすらいの旅。
「少なくとも九十二歳まで生存し」「かかる高齢に達してもなお流浪の生活をやめなかったことは明かである」。しかし、「エレアに留って哲学の一派を開いたという伝説は疑わしい」(66)
・「哲学者より学び哲学者に影響」(66)、しかし、「哲学者よりはむしろ詩人」、「詩人としての」「自覚と自信」。
・クセノファネスの神話批判:「浄化向上を計る宗教そのものの努力よりして生じたものではなかった」(67)
(真剣な宗教批判自体の宗教性、宗教は宗教自体にの自己止揚をめざす)
  ↓
啓蒙的新思想に立脚した神話批判:「啓蒙的空気」「伝承的神話と」「の距りの意識より」。「イオニアの新しい哲学の深き感化を受けた」(68)。
(「啓蒙」は、歴史的概念から精神性の一つの基本類型となる。この精神類型は一定の条件が整えばさまざまな時代状況において出現する。波多野はこの類型に注目している。)
  ↓
2.神話批判
「かなりの独創」、「諸民族の相異なる神観の比較観察を行ったこと」(68)

「通俗の神観の最大根本的なる欠点をその擬人観」(68)に見出す。
神々の道徳的不完全性
「道徳的完全性を神の本質的特徴として暗々裏ににおいてなりとも要求するを敢えてしたは彼が最初」、「擬人的神観の誤謬を痛切に感ぜしめた一の動機は、確かに諸民族の神観の間の相違に存した」(69)。牛の神は牛的、馬の神は馬的、獅子の神は獅子的・・・。

3.神観
「真の神をいかに考えたか」、「「姿も思想も人間に似ず」」「「精神の力を以て万物を支配す」」「「動くことなし」」
(断片の文献学的な扱い方)
「通常汎神論と名づけられるものに属する」(70)、「一体として考えられた世界そのもの」しかし、「哲学的よりはむしろ詩人的」
「この神観が一神教と名づくべきものであるか否か」「然りを答え得よう」(71)
  Feudenthalの「多数の低級なる神々を認める希臘思想の一般的傾向に対して、決して例外ではなかった」という議論、「彼の論拠は決して薄弱なものではない」。つまり、クセノファネスが論難したのは「擬人観であって多神教ではなかった」(72)。
  しかしながら、「吾々は、クセノファネスが明白に多数の神々の存在を説いたと解すべき資料も亦一として存在しないことを、特に指摘せねばならぬ」(72)、確実なことは、「彼が世界全体を神と考えたこと、而してそれ以外神の有無の問題に全く触れなかったことである」(72)。
(文献学的議論を基礎にした思想史研究!)
「神の一か多かの問題が希臘思想に対して何ら執拗なる意義を有しなかったを語る」(72-73)。

4.世界観・自然観
「彼の興味と努力とが世界及び其の現象に関する真理の究明に向かったとしては、彼の態度はあまりにも無責任であり、あまりにも児戯に類する」、「国民の精神的指導という詩人的天職」(73)
「通俗の神観が神々乃至神々の仕業と解し来たった所のものを、単なる自然現象として新しき学問の方法によって解釈し得るということ」(73-74)は、「彼に、好個の武器を提供したに相違ない」、「イオニアの哲学的精神を自由に吸収しつつ育ち、しかも詩人の天職を明らかに自覚した彼は、喜んでこの武器を取り上げた」
「個々の説の理論的価値の如きは、問うの暇もなく、考える興味をも喚ばなかったではなかろうか」(74)。
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