キリスト教と翻訳の問題(8)

 「キリスト教と翻訳」はキリスト教学の授業でも当然重要なテーマとなる。今年度は龍谷大学で「聖書研究」という授業を担当しているが(金曜日の午前中は、この講義と「キリスト教神学」の講義の2コマを非常勤講師として講義している)、本日の授業で、この翻訳というテーマを取り上げた。これまでは、聖書の内容の概略と、現代聖書学の様々な議論を論じてきたが、後期の後半は、聖書と西洋文化との関連を論じることになっており、本日は、その初回で、「キリスト教と翻訳」を取り上げ、次回から行われる、西洋文化と聖書との本質的な連関(聖書は翻訳を介して西洋文化の構成要素となる)についての個別的で具体的な議論の前提を明らかにすることを試みた。
 授業での配布プリントの関連部分を、参考までに以下に掲載することにしたい。なお、次回は「告白文学」がテーマとなる。


1:聖書翻訳と国民文学
(1)翻訳文化とキリスト教
1.原典・原語主義:近代の人文学は、原典主義を基本にする。これは、「知の歴史性」 を自覚した歴史主義を基盤にしている。

聖書研究は、ヘブライ語とギリシャ語の原典でなされる。
2.近代人文主義1:ウルガタ(ラテン語聖書)から、原典に帰れ。
3.近代人文主義2:聖書の近代語訳(英語、ドイツ語、フランス語など)の推進。
4.宗教改革・聖書主義のもたらしたもの:「聖書のみ」のスローガンの実現過程=近代 国民文化形成過程(翻訳・近代語・印刷出版・教育)
ルター訳聖書、欽定訳聖書:近代語、国民文学の形成へのインパクト

  ヨーロッパ文化理解の鍵としての近代語訳聖書
5.The two greatest influences on the shaping of the English language are the works of William  Shakespeare and the English translation of the Bible that appeared in 1611. The King James   Bible ---named for the British king who ordered the production of a fresh translation in 1604  --- is both a religious and literary classic. (McGrath,1)
 「英語文化の形成に大きな影響を与えてきた聖書の名句」(寺澤、i)
6.創造活動としての翻訳。翻訳は、それ自体が新しい創造活動である。

(2)宗教と翻訳
7.翻訳なしに宗教は可能か。生きた宗教は土着化(文化に受容されそこに根ざすこと) しなければならない。→外来宗教の土着化は、「翻訳」を不可欠の構成要素とする。
8.翻訳された聖典は、その宗教の新しい創造的な形態となる。仏典の漢訳。
9.「Theos」の訳:deus、God、デウス、神→既存の用語と新しい造語、あるいは音訳。
10.「宣教師が試みた翻訳のなかで問題になったのは、キリスト教独自の概念をどのよう な日本語であらわすか、という点であった。ザビエルたちは、はじめ根本仏「大日如来」 とキリスト教の神との超越性という類似点に着目して、唯一絶対神を「大日」と呼んで いたのだが、仏僧との議論の過程でキリスト教の教義のうえで見過ごすことのできない 相違点、すなわち大日如来は万物の創造主ではないということ、仏教の世界にはイエス ・キリストの受難が欠落していることに気づき、「大日」の使用を禁止する。代わりに 選ばれたのは「デウス」というラテン語からの音訳語であった。」(米井、20)
  愛:御大切
 「キリシタンの日本語研究と翻訳の試みが刻印されたキリシタン文献は、日本語史の研 究のうえで大きな可能性をもっているといえるだろう。」(25)
11.日本語の「神」は、God の翻訳語として定着する過程で、日本語の「神」の意味内 容を変容させた。
12.翻訳理論、直訳や意訳か?
厳密さと理解しやすさ(文脈における意味の再現)という二つの翻訳の基準。

・翻訳とその反復の必要性。
翻訳は完全ではなく、限界内の作業。受け手の変化は新しい翻訳を要求し、新し   い翻訳は受け手の文化に影響する。
・翻訳の歴史は、宗教の歴史の構成要素である。

<参考文献>
1.寺澤芳雄編著『名句で読む英語聖書──聖書と英語文化』研究社。
2.ピーター・ミルワード『英語の名句・名言 』講談社現代新書。
3.清水護『英訳聖書の語学・文学・文化研究』学術出版。
4.安西徹雄、井上健、小林章夫編『翻訳を学ぶ人のために』世界思想社。
5.柳父章『「ゴット」は神か上帝か』岩波書店、『翻訳の思想』平凡社。
6.米井力也『キリシタンと翻訳──異文化接触の十字路』平凡社。
7.鈴木範久『聖書の日本語──翻訳の歴史』岩波書店。
8.Alister McGrath, In The Beginning, The Story of the King James Bible and How It Changed a Nation, a Language, and a Culture, Anchor Books, 2001.
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