キリスト教と翻訳の問題(9)

 しばらくほかのテーマを連続して取り上げていたために、「キリスト教と翻訳の問題」の掲載が途切れていた。少しずつ再開したいと思うが、これまでも継続してきたテーマはいつの間にか中断してそのままになっている例が少なくないので、このテーマについては、体制を立て直したいと思う。それは、問題の論点の整理・確認である。これからも、しばらく、このテーマを継続的に扱う予定であるが、取り上げることが予定されている論点は次の通りである。

・聖書翻訳の歴史(キリスト教思想史の視点から):聖書の古典的な翻訳事例(LXX、ウルガタ、ルター訳、欽定訳・・・)をめぐる問題。
・聖書翻訳の原理的な問題:聖書が「神の言葉」であるということの意味、それを翻訳するということの意味。翻訳はいかなる仕方で神の言葉か。いわゆる原典は、翻訳以上に質的差異において神の言葉か。
・翻訳をめぐる哲学的な問題:現代哲学においては様々な立場の哲学者が翻訳を論じている。その中より、リクールを中心に議論を検討する。
・翻訳の実務に近いところで展開される翻訳理論:これはいわば「翻訳学」と言うべき領域であり、文学や語学(例えば英文学と英語学)とそれに密着した言語学が問題になる。たとえば、聖書翻訳にも関連のある、ナイダの翻訳理論など。
・翻訳の文化史的社会史的意義:特に東アジア近代における「翻訳」の意味を論じる。日本思想史における翻訳といった論点が問題になる。

 以上の論点を十分に論じることが可能であれば、そこから、「キリスト教は基本的に翻訳の宗教である」との命題=仮説が提示されることになると予想される。本ブログが、そこまで進めるかは心許ない限りではある。

 最後の論点に関わる文献として、次のものを紹介しておこう。

柳父章/水野的/長沼美香子編
『日本の翻訳論 アンソロジーと解題』
法政大学出版局、2010年。

第I部 日本における翻訳──歴史的前提(柳父章)

第II部 近代日本の翻訳論──原典と解題
本アンソロジーを読むために(水野的)
凡例

1 渡部温『通俗 伊蘇普物語』例言、1873年(解題 水野的)
2 宮島春松『歐州小説 哲烈禍福譚』緒言、1879年
  伊澤信三郎訳『経世指針 鐵烈奇談』緒言、1883年(解題 佐藤美希)
3 坪内逍遙『該撤奇談 自由太刀餘波鋭鋒』附言、1884年(解題 佐藤美希)
4 藤田茂吉・尾崎康夫『諷世嘲俗 繋思談』例言、1885年(解題 水野的)
5 森田思軒「翻譯の心得」、1887年(解題 齊藤美野)
6 森田思軒『夜と朝』叙、1889年(解題 齊藤美野)
7 高橋正次郎『自由之権利』凡例、1895年(解題 山岡洋一)
8 福澤諭吉『福澤全集緒言』1897年(解題 柳父章)
9 内村鑑三『外國語之研究』1899年(解題 田辺希久子)
10 山縣五十雄『該撤殺害』「トウエーン論 餘論」1903年、(解題 水野的)
11 上田敏『海潮音』序、1905年(解題 水野的)
12 二葉亭四迷「余が飜譯の標準」1906年(解題 コックリル浩子)
13 末松謙澄「飜譯上より見たる日本文と歐文」1906年(解題 長沼美香子)
14 高橋五郞『英文譯解法』1908年(解題 長沼美香子)
15 森鷗外「『即興詩人』時代と現時の翻譯」1909年(解題 藤濤文子)
16 内田魯庵「原文の印象と譯文の趣致」1909年(解題 コックリル浩子)
17 昇 曙夢『露西現代表的作家六人集』自序、1910年(解題 コックリル浩子)
18 森鷗外「譯本ファウストに就いて」1913年(解題 藤濤文子)
19 生田長江『サラムボオ』譯者の序、1913年(解題 水野的)
20 岩野泡鳴『表象派の文学運動』譯者の序/例言、1913年(解題 水野的)
21 竹内謙二『國富論』書後、1925年
  気賀勘重『國富論』上巻訳者序、1927年(解題 山岡洋一)
22 坪内逍遙「自分の飜譯に就いて」1929年(解題 佐藤美希)
23 小宮豊隆「發句飜譯の可能性」1933年(解題 佐藤美希)
24 萩原朔太郎「詩の飜譯について」1933年(解題 水野的)
25 谷崎潤一郎『文章讀本』「西洋の文章と日本の文章」1934年(解題 長沼美香子)
26 中村白葉「飜譯文の表現と指導」1934年(解題 コックリル浩子)
27 野上豊一郎『飜譯論──飜譯の理論と實際』1936年(解題 長沼美香子)
28 太田龍男「スーパー・インポーズにおける日本語の貧困」1939年(解題 長沼美香子)
29 大山定一・吉川幸次郎『洛中書簡』1944年(解題 藤濤文子)

底本・親本・初出
文献案内(長沼美香子)
「あとがき」にかえて

日本近代は翻訳事業なくしては語ることができない。その現場においてこの事業の取り組んできた先人の言葉は無視することはできない。内村鑑三からの文章が収録されていることも興味深い。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
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