領土という概念をめぐって

 主権国家にとって領土はしばしば最も重要な問題と言われる。確かに最もデリケートで困難な問題であることは疑いもない。しかし、聖書的立場から、特にその中心にある契約思想の観点から見れば、領土そしてそもそも所有という概念は決して自明ではない。
 日本を取り巻く領土問題(ロシア、韓国、中国)に関して、対話の論理による現実的な解決を目指す立場から、次の文献が刊行された(著者の専門領域の関係から議論は北方領土問題が中心ではあるが)。聖書的な観点との関わりを含め、重要な研究テーマと言える。

和田春樹
『領土問題をどう解決するか 対立から対話へ』
平凡社新書、2012年10月。

はじめに──領土問題にも精神の革命を

第一章 危険な「固有の領土」論
第二章 われわれは敗戦で領土を失った
第三章 放棄した千島に択捉・国後島は入らないという詭弁
第四章 二つの条約の問題ある訳文を利用する
第五章 日ソ交渉史は冷戦のドラマであった
第六章 逃された最大のチャンス
第七章 北方四島問題の解決
第八章 竹島=独島問題と尖閣=釣魚諸島問題
第九章 領土問題解決の道

参考文献
領土問題関連年表


 領土あるいは土地とその所有とは、聖書的にはいかなる仕方で考えるべきであろうか。

Richard A. Horsley, Covenant Economics. A Biblical Vision of Justice for All, Westminster/John  Knox Press, 2009. は、この問題について次のように契約思想の基本原理をまとめている。

This economy is moral insofar as all village families are guaranteed an economic subsistence, so long as the villagers themselves still control the resources to make it possible. (37)
Two principles lay at the basis of the moral economy of early Israelite village communities. First, the land belonged to Yahweh and was, in effect, leased to Israelite families for their use. (38)
The second principle underlying all of the principles developed to keep families viable was that the land allotted to each family was inalienable, could not be permanently sold or taken away.

つまり、土地の所有・私有は自明の事実ではなく、それは基本的に神に属するものであり、人間にはその使用権のみが与えられ、この使用権は他者が侵害してはならないものとされている。土地は神と人間の契約においてその所有・使用が決定されるべきものなのである。この場合、それはその土地あるいは海域で現に生計を立てている諸家族の共有であって、近代的な主権国家が問題にする軍事的な勢力範囲(境界線)・利権の事柄ではないのである。
神が人間に求めるのは、それをだけから独占するのではなく、そこで漁をする諸家族が魚資源を共有しわかり合うことなのである。これが聖書的な領土問題への基本的スタンスなのである。

 明治の日本、東北の農村で宣教師として働き、日本の社会主義運動の草創期を支えたガルスト(Charles E. Garst, 1853-1899、ディサイプル派、単税論)が掲げた聖書の言葉は、次のように宣言している。

「天は主のもの、地は人への賜物」(詩編115:16)

 「この聖句にもとづいて、神によって与えられた土地に対する万人平等の権利を説き、かかる土地を地主の占有にすることに強く反対した。」(工藤英一『単税太郎C・E・ガルスト──明治期社会運動の先駆者』聖学院大学出版会、59頁)
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