キリスト教と翻訳の問題(13)

 リクールが翻訳論で言及する中で、次に取り上げたいのは、ヴァルター・ベンヤミンである。取り上げる文脈は、前回取り上げたエーコの文脈とも重なる「完全言語」である。リクールは、完全言語は完全翻訳の夢とも結びつき、さまざまな思想的な試みを生み出す。その一形態が、啓蒙主義的な完全図書館の夢(エーコも取り上げていた)であるが、それとは異なる完全翻訳の形態として言及されるのが、ベンヤミンの「メシア的な期待」(messianic expectation)であり、リクールは次のように簡単に触れるに過ぎない(リクールの翻訳論自体が大きな論考ではない)。

The other aspiration of perfect translation was embodied in messianic expectation, which Walter Benjamin revived at the level of language in that magnificent text, The Translator' Task. What would then be aspired to would be the pure language, as Benjamin puts it, that every translation carries within itself as its messianic echo. In all these forms, the dream of the perfect translation amounts to the wish that translation would gain, gain without losing. It is this very same gain without loss that we must mourn until we reach an acceptance of the impassable difference of the peculiar and the foreign. .... (9)

 もちろん、ベンヤミンは現代思想で比較的頻繁に、多くの文脈で取り上げられる注目すべき思想家である(本ブログに関連するものとしては、たとえば、有名な「歴史の概念について」は、その中でもとりわけ有名な第九テーゼ、また第一テーゼの「自動人形」「小人」はジジェクの著書にタイトルになる)。
 リクールが言及している「翻訳者の使命」も、『ベンヤミン・コレクション2 エッセイの思想』ちくま学芸文庫、に収められており、邦訳で読むことができる。「メシア的な期待」は、少し文脈を補足しながら引用すれば、次のようになる。

「諸言語間のあらゆる歴史を超えた親縁性の実質は、それぞれ全体をなしている個々の言語において、そのつどの一つの、しかも同一のものが志向されているという点にある。それにもかかわらずこの同一のものとは、個別的な諸言語には達せられるものではなく、諸言語が互いに補完しあうもろもろの志向(Intention)の総体によってのみ到達しうるものであり、それがすなわち、<純粋言語(die reine Sprache)>なのである。言い換えれば、諸言語のあらゆる個々の要素、つまり語、文、文脈が互いに排除しあうのに対して、諸言語はその志向そのものにおいて補完しあうのだ。」(396-397)

「このように、志向する仕方は、この二つの語のもとで互いに敵対しあうのに対して、それらが属する二つの言語においては互いに補完しあう。しかもこの二つの言語において、志向する仕方は、志向されるものに向かって互いに補完しあうのである。」(397)

「言い換えれば、個々の補完されていない言語の場合には、個々の語や文の場合と同様に、それぞれの言語によって志向されるものは、決して相対的な自律性において見出すことはできず、むしろ、絶えざる変容のなかにあることになる。」(397-398)

「つまり、この志向されるものが、あのさまざまな志向する仕方しべての調和のなかから、純粋言語として現われることができるようになるまでは、そのときまで、志向されるものは諸言語のなかに隠れたままなのだ。しかしもし諸言語がこのようにして、その歴史のメシア的終末に達するまで生長するとすれば、そのときにこそ翻訳は、諸作品の永遠の死後の生と諸言語の無限の活性化によって燃えあがり、たえず新たに、諸言語のあの聖なる生長を検証するのである。」(398)

 「メシア的な期待」とは、さしあたり以上の最後の文脈で登場する思想であるが、その背景は、ベンヤミンを超えて追究することを要することになる。
 
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