キリスト教と翻訳の問題(23)

 聖書翻訳との関わりという観点から、これまで数回にわたって、ナイダの著作を取り上げてきたが、ナイダ以降、翻訳理論は哲学的な領域との関わりを含めて、様々な展開を示している。こうした点をフォローする上で有益であり(なんといっても議論が明瞭で比較的コンパクトである)、また邦訳が存在するものとして、次のピム(Anthony Pym, 1956-)の翻訳論を挙げることが出来る。

アンソニー・ピム
『翻訳理論の探求』
みすず書房、2010年(原著は、やはり2010年)

まえがき

第1章 翻訳理論とは何か
1.1 「理論づけ」から「理論」へ
1.2 「理論」から「パラダイム」へ
1.3 本書の構成
1.4 なぜ翻訳理論を学ぶのか
1.5 翻訳理論をどう学ぶのか

第2章 自然的等価
2.1 概念としての自然的等価
2.2 「等価」対「構造主義」
2.3 自然的等価を維持する翻訳手順
2.4 テクスト・ベースの等価
2.5 「比較のための第三項」と「意味の理論」
2.6 自然的等価の長所
2.7 頻繁な議論
2.8 歴史的な下位パラダイムとしての自然的等価

第3章 方向的等価
3.1 二種類の類似性
3.2 等価の定義における方向性
3.3 検証としての逆翻訳
3.4 方向的等価の二項対立性
3.5 分類は二つだけか
3.6 関連性理論
3.7 幻想としての等価
3.8 方向的等価の長所
3.9 頻繁な議論

第4章 目的
4.1 新パラダイムの鍵としてのスコポス
4.2 ライス、フェアメーアとスコポス的アプローチの起源
4.3 ホルツ=メンテーリと翻訳者の専門知識に関する理論
4.4 目的に基づいた「事足りる」翻訳の理論
4.5 誰が目的を決めるのか
4.6 目的パラダイムの長所
4.7 頻繁な議論
4.8 プロジェクト分析への応用

第5章 記述
5.1 等価パラダイムに何が起こったか
5.2 記述パラダイム内の理論的概念
5.3 規範
5.4 「想定された」翻訳
5.5 目標側の優先
5.6 翻訳の普遍的特性
5.7 法則
5.8 頻繁な議論
5.9 記述パラダイムの行方

第6章 不確定性
6.1 なぜ「不確定性」か
6.2 不確定性原理
6.3 言語の決定性と翻訳の不確定性
6.4 不確定性と共存するための理論
6.5 脱構築
6.6 では、どう翻訳すべきか
6.7 頻繁な議論

第7章 ローカリゼーション
7.1 パラダイムとしてのローカリゼーション
7.2 ローカリゼーションとは何か
7.3 国際化とは何か
7.4 ローカリゼーションは新しい概念か
7.5 テクノロジーの役割
7.6 翻訳はローカリゼーションの一部か
7.7 頻繁な議論
7.8 ローカリゼーションの行方

第8章 文化翻訳
8.1 新世紀のための新パラダイムか
8.2 バーバと「非実質的な」翻訳
8.3 翻訳不在の翻訳:広範な学問の希求
8.4 翻訳としての民族誌学
8.5 翻訳社会学
8.6 スピヴァクと翻訳の政治的精神分析
8.7 「一般化された翻訳」
8.8 頻繁な議論

あとがき:自分の理論を生み出そう
訳者あとがき
付録:訳者と原著者のQ&A
参考文献
人名索引
事項索引


 以上からわかるように、本書は翻訳理論の現在の状況を概観する上で、読者の視点に立った様々な工夫がなされている。たとえば、各章には、「頻繁な議論」(Frequently had arguments)が最後のあたりに付けられているが、それは、この章での議論に関わるいくつかの論点を整理して提示したものであり、その章の理解を助けるものとなっている。
 本書のまとめの特徴は、諸理論をパラダイムというまとめりでとらえ、そのパラダイムの推移の中で、翻訳理論の展開を概観していることであり、翻訳をめぐって何が問題であり、どのような理論的かがなされてきかたを知るに有益である。ナイダにおいて提示された「等価」(equivalence)が形成するパラダイムがどのように次のパラダイムへ移るのか、また翻訳が関連諸学問の動向とどのように結びつくのか(特に第8章)が、理解しやすく形で示されている。翻訳という問題は、文学・文献学、言語学、哲学、歴史学、社会学、民族学などの広がりにおいて存在しており、その点からも、キリスト教という現象を論じるのにふさわしい問題設定となっている。
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