研究報告(1)

 三年間にわたり行われてきた科研費による研究であったが、いよいよ、締めくくりの時期となり、現在、報告書の作成中である。残りの予算で印刷製本をすることも考え、頁数は当初の予定よりかなり圧縮することになった(それでもA4で150頁程度にはなるので、分量だけから言えば、課程博士論文サイズである)。
 もちろん、科研費が区切りとなっても、研究が終わるわけではなく、次の科研費が獲得できれば、その費用で、獲得できなければ、できないなりに、研究は継続される。その点では、報告書作成の段階で、意識はすでに次の研究構想に向いている。

 報告書は、基本的に形が決まっており、それにしたがって、作成することになるが、研究の形式的な説明(題目や課題番号、研究メンバー、この間に行った論文執筆や口頭発表など)に続き、研究概要をまとめることになる。ここまでが、いわば報告書の序に相当する。この研究概要の最後は、研究成果を箇条書き的に列挙する形になるが、その内容は次の通りである。なお、研究概要の書き出しは、本ブログで研究概要とタイトルで書いた文を使用している(この文は研究の申請書のために作成したものが原型となっている)。

<研究概要の結び>
 以上の研究構想に基づいた本研究の成果は以下のようにまとめられる。
1.自然神学の再構築の基礎論としての聖書解釈。
 本研究は、キリスト教思想(神学)と諸科学との間の相互連関を可能にする自然神学を、現代の自然科学はもちろん、社会科学や人文科学も視野に入れる仕方で再構築するという基本的な構想にもとづいて進められた。これは神学と諸科学との間のコミュニケーション合理性の確立に関わる問題設定であるが、もちろん、これは一挙に成し遂げられるものではなく、本研究ではその出発点を聖書とその解釈においた。それは、次の二つの理由に基づいている。まず、聖書はきわめて多様に展開されてきたキリスト教思想の基盤に位置するものであり、キリスト教思想の基点あるいは土台はここに求めることができるからである。次に、自然神学の古典的で規範的な事例と言える、西洋キリスト教の歴史的文脈における自然神学がまさに聖書(特に創造論)を基盤として構想されており、自然神学を再構築する場合にも、聖書に帰ることが適切な方法であると考えられるからである。その具体的な内容については、本報告書の第一部、特に講義資料において示されている。

2.日本(東アジア)における自然神学の基礎論となる宗教哲学、また韓国での動向。
 本研究では、自然神学を現代の文脈で再構築するにあたり、日本を含む東アジアの基督教思想の動向を参照するという方法がとられた。それについては、当初の研究計画から見ると研究の範囲を縮小することになったものの、実質的な点では、目的は達成できたものと思われる。すなわち、現代の韓国キリスト教思想において、本研究と密接に関わる思想動向が確認され、今後、東アジアにおいて自然神学の再構築という課題に向けた議論の道筋を明らかにされた。それは、本報告書の第三部に翻訳し収録された韓国語論文が示す通りである。

3.聖書的思考(聖書の思想)に基づく環境論と経済論の統合。
 聖書あるいは聖書解釈が本研究の基点となることはすでに確認した通りであるが、聖書から自然神学の再構築をどのように遂行するかについては、個々の問題に即した議論が必要になる。つまり、再構築された自然神学の射程に含まれた環境論と経済論の中身の問題である。これについては、第一部に収録された論文と講義資料において基本的な論点が展開されている。特に、重要な成果として強調したいのは、聖書・自然神学という観点から見ることによって、環境論と経済論とが一つの連関で議論可能になることが示されたことである。しかも、これらは創造、契約、終末という聖書の思想基盤に依拠したものであり、聖書から再構築された自然神学の内実として提示するに相応しいものとなっている。

4.科学技術自体をテーマとしたキリスト教自然神学。
 自然神学の再構築は、環境と経済という問題連関が示すように、理論構築に止まるものではなく、その射程は科学技術がカバーする広範な領域に及んでいる。それは、本研究報告全体からも理解いただける論点と思われるが、特に、第三部では、研究代表者がこの研究計画の期間に行った書評を収録し、自然神学の問題が、遺伝子工学や原子力にも関わることを示した。本研究とは別の研究として取り組まれた問題であるが、研究代表者は、近年脳科学と宗教というテーマにも研究を拡げつつある(芦名定道「脳科学は宗教哲学に何をもたらしたか」、芦名定道、星川啓慈編『脳科学は宗教を解明できるか?』春秋社、2012年、所収)。将来的には脳科学の問題も、自然神学の再構築という本研究の問題領域に組み込まれることになるであろう。


 ここまでが報告書の序であるが、この後に以上にまとめられた研究成果の具体的な内容に相当する本論が来るわけであり、この本論が報告書の大半部分を占めることになる。
 今回の報告書の場合、その目次は次のようになる。


目   次


第一部 自然神学・環境・経済と聖書解釈
  1.「キリスト教信仰と科学の関係史──進化論を中心に」
  2.「キリスト教と近代社会の諸問題」
  3.講義資料から
   ・「キリスト教思想から見た環境と経済」
   ・「聖書と環境思想」
   ・「聖書と経済思想」

第二部 韓国キリスト教思想と環境論
  4.柳美浩「被造物と共なる基督教環境運動の25年」
  5.金敬宰「気候崩壊と神学的応答 : 過去25年の韓国神学界の自然
         -エコロジー神学探求の地形図と今日の課題」

第三部 書評
  ・書評1.「金承哲著『神と遺伝子──遺伝子工学時代におけるキリスト教』」
     (日本基督教学会『日本の神学』49号、2010年9月、pp.185-190。) 
  ・書評2.「『基督教思想』編『原子力とわたしたちの未来──韓国キリスト教の視点から』」
     (『福音と世界』2013.3、新教出版社、掲載予定。)


 当初の予定では、以上の第一部の内容は、この3年に執筆した宗教哲学関連の諸論文を収録するなどして、ここを二部形式することになっていたが、頁が膨大なものになることがわかり、以上の形態にすることに落ち着いた。
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 これまで本ブログは、2013年度より2015年度まで科学研究費の交付(代表者・芦名定道)を受けて行われた研究を中心に、キリスト教思想研究に関わる情報を発信してきました。しかし、2016年度からの新しい研究プロジェクトに関連した事柄は、主に別のブログで取り扱うことにし、本ブログでは、これ以外の記事について継続的に内容を更新します(新しい科研に関するものも、記事の継続性の観点から一部はこちらでも扱います)。
 なお、本ブログにもしばしばコメントが寄せられますが、多忙のため、原則として応答その他の取り扱いはいたしません。

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